おれがやめる
「・・・どいてよ」
ジャンに文句を言うウィルの声はいつものものだった。
顔を確認した副班長がからだをどけ、ザックも腕をはなす。
ちくしょう、これ腫れるな、と張られた頬をなでた貴族様は、同じように変色した頬をおさえているルイをいちべつし、なにかをいいかけて、けっきょくそのまま出て行った。
「・・くそ・・やっぱだめだな・・」
ジャンが自分の額を拳でたたく。
「だめなのはおれだよ。みんな、おれが発端だ・・・」
力なくたちあがったルイが、ザックをみてさびしげにほほえむ。
「おれ、―― やめるから」
「え?」
目の合った相手の顔をザックはぽかんとみかえす。
「ケンが辞めることなんてない。おれがやめればあいつもここにもどってくるし、みんなもまた戻ってくるさ。 ―― ザック、わるかった。 ジャン、バートにあとで・・・おれが連絡しないほうがいいか。伝えておいてくれよ」
「おい、なにいってんだ」
「ルイ、どうして・・」
ザックがだしかけた問いに振りむけられた顔に、もう、なにも言えなくなる。
ドアが静かな音で閉まりきるまで、残された二人は動くこともできなかった。




