最悪の日
ケンが怒った声で言って、ジャンがためいきをついて、『・・・おれたちに気をつかってどうすんだよ?』なんていうのに、ザックはなんで二人が急にレイにたいしておこりだしたのかわからなくてとまどったのだ。
「 そういうことだ。レイは、いまだに見ず知らずの人間にあとをつけられることがよくある。なのにあいつ、『つけられるだけだから』って、めったにおれたちのこと呼ばないんだよ」
「うそだろ!!なんだよそれ!」
立ち上がった拍子にカップの中身がこぼれる。
「 そんなの、それこそ片っ端から捕まえないと、」
「ただ、街を歩いていたってだけで?」
ウィルがカップをふるようにわらう。
「短距離だからレイのあとをつけてたっていう証明もできないし、問い詰めてもシラをきられておわりだよ。 それに、あとをつける人間のなかにはゴシップ誌の記者もいる。 そんなやつらに間違って疑いをかけたりしたら、今まで知られてなかった『事件』が、それこそ『下品』にかきたてられるだろうな」
ザックはくやしげに口をとじ、こぼれたコーヒーを袖でふきとりながら残っていたコーヒーをあおった。
ウィルが空の紙カップをにぎりつぶし、ずっと黙ったままのルイの前に立つ。
「 ―― 最大のかくしごとを口にするには最悪の日だったんだ。 ケンがあんなに暴れたのは、きのう、―― レイがあいつに会ったからだ」
「え!?なんで!」「どこでだ!」ルイとニコルがいっしょにさけぶ。
その場の緊張を感じながらザックはきいてみる。
「『あいつ』って、・・・まさか・・」
「レイを誘拐して傷つけた犯人、 ニール・クレイって男だ」
路地の入口に立った黒い男




