ながされない事件
残虐表現あり。ごちゅういを
ザックの視線をうけても口をあけないジャンにかわってウィルがザックの目をとらえた。
「 ヤツいわく、 ―― レイの背中に神の象徴がいくつも浮かんだから、・・・そこを、ひとつずつナイフであけていただけだって」
「ナイフ!?あ、あけるって・・」
「そ。レイは、」いちど口を閉じる「 ―― ・・・マイクとバートが駆けつけた時には、裸にされて背中は切り刻まれて血まみれだった。 ナイフを手にまだ続けようとする犯人を、マイクは殺す寸前まで殴りつづけて、しばらく停職になった」
「・・・・・」
口と目をあけたまま、ほかの男たちをながめる新人は声がだせないようだった。
みんな黙ったままザックを見守っている。
「そ、・・・」声をしぼりだしたが、あわてて口をとじ、「そんな・・・事件、きいたおぼえないよ・・」と弱弱しい声を足元におとす。
じっとしていられないように立ち上がったニコルが、班室の隅にあるコーヒーメイカーにセットしはじめる。
誰もなにもしゃべらないので、ゆっくりと説明をしはじめる。
「・・・聞いたことはないはずだ。 ニュースとしてながされることはなかった。《誘拐》っていっても、そのとき動いてた刑事はマイクだけだったし、事件はけっきょく《治安部》があつかうことになったからな」
「《治安維持部署》ってこと? ああ、そいつが『教祖』ってことだから?」
宗教関係の事件ということか。
うなずくと思ったニコルは紙カップを手に首をふった。
「 そいつを『教祖』だとは立証できなかった。 やつらは名簿も教会もつくっていなかったから、ほかの『信者』を探しようがなかったんだ。だから警察は普通に『誘拐殺人未遂』事件として殺人課にまわそうとしたんだが・・・」
政府に監視されているメッセージリンクのページに『光の子から《光》をとりだすことに、われわれは失敗した』というメッセージが投稿されたのを警察が把握し、やはり《宗教》がらみだと治安部が主張し、メッセージを投稿した人物を警察官が確保に向かえば、 ―― 死体がまっていた。




