元聖父
「銃を調達してむこうに立てこもるのか? おれも手伝おう」
「いや、今日のところはとりあえず武器だけかしてもらうよ。それより ―― 『もと聖父さん』にお願いしたいことがあるんだけど」
「今のおれでできることならな」
「・・・十三年前に、頭のおかしな新興宗教の教祖がおこした事件、知ってるよね?」
新聞やニュースには流れなかったが、宗教関係者ならば知っているはずだ。
「・・おい、それは・・・あの《誘拐事件》か? それでここにきたんだな?」
「当時の信者のリストって、警察の《治安部》でも手にはいらなかったんだ。 あんたならどっかに情報をもってないかと思ってさ」
むこうで牛とたわむれるレイをながめ《神への祈り》の型をすばやく指できった『元聖父』は、ウィルに提案した。
「残念だがおれのほうにはなにもない。 ―― だが、おれをお前らの中に紛れ込ませてくれたら、『あいつ』をすぐに、しとめてやる」
「トムもあんたも、『法律』って言葉知ってる? あ、それと、ほかにもあんたにもお願いしたいことがあるんだけどさ」
「なんだよ。そりゃ、『あの事件』の関係か?」
昨年かかわった《バーノルド事件》の片付けに、ジョーにはかなり協力してもらっていた。
「いいや、別件なんだけど、 ―― 『白いカラス』について、なにか知らない?」
聞いたときにレイがこちらへもどってくるのがみえた。
ウィルにこたえる気もなさそうなジョーは、その姿から目をはなさない。




