『羊番』のトム
ガシャリ、と金属同士がかみあってはまる音が響く。
「ぼっちゃま、こんなもんでいかがです?」
がつりと重い音で、古い銃がテーブルに置かれた。
「ありがとう、トム。 これらってしばらく借りだしても平気?」
質素で小さななテーブルの上に、骨董品のようなライフル二梃と携帯用の一般的な大きさの銃がのっている。
「なに、銃はまだありますし、 ―― なにより、ジョーがおるんで」
古い毛布をだしてライフルをていねいに包み始め、うれしそうに続けた。
「 レイさまが今年も名付け親になってくださって、羊や牛どももよろこんでおるでしょう」
牧場を管理するこの『羊番』は、ウィルが生まれる前からここで家畜といっしょに暮らしていて、どうやら羊や牛のきもちがわかるらしい。
「 ―― それに、やっとジョーに会ってもらえたんで」
「そういやあいつ、腰をぬかしそうになってたな」
レイが車からおりたとき、遠くにいたあの男が、あわててぬいだ帽子を胸におしつけてたちつくすのがみえた。
「レイに会うの、はじめてなんだっけ?」
「会うのを嫌がってたんで。 ―― いつもわしのはなしを鼻でわらって、そんなのがいるわけねえって、馬鹿にしてましたさ」
「だろうな。 ―― おれだってはなしだけきいてたら信じないね。 《美形で純粋で誰からも愛されて、彼が名前をつけた家畜はみんな長生きする》 なんて」
「ほんとのことですぜ」
いくぶんむきに言い返す年寄にわらってうなずいてみせる。
「だから、愛されなくてもいい連中からも愛されるんだ。・・・彼のせいじゃないんだけど」
「そんなやつら、ぼっちゃまが片っ端から撃ってやればいい」
鼻にしわをよせ言い切る。
「あのね、『法律』っていうのがあるんだよ」
いくら納得いかなくても。
ぶつくさいう老人が銃器を車にはこんでおくというので、ウィルはレイをさがしに家畜小屋へむかった。




