失態
ニコルの家がきらいというわけではなく、ほんの少し落ち着かなくなるだけだ。
そこはリビングとキッチンが壁もなく同じ空間に存在し、バーカウンターまでそろっている。
家具はもちろんすべて妻であるターニャがつとめる会社の、彼女がデザインしたものたちで統一されている。
「バートのところと広さはそんな大差ないだろ」
地下があるぶんあっちのほうが広いさ、というニコルは肩をすくめる。
「いや、なんていうか・・・あそこは独特なかたちだから壁があるし、もっと、・・・ちらかってる」
何ものっていなそばのテーブルをしめしてやる。
「あそこを《ちらかしてる》のはお前たちだろ。それに、家をきれいにするのはレイだけときた」
ひとりですべてに手がとどくわけないだろう?といいながら掃除機をかける男をルイはソファからながめる。
ターニャも言っていたが、この家をホテルのように落ち着かないものにさせているのは、ニコルの几帳面さだ。
けっして悪いとはいえないのだが。
「・・・落ち着かない・・・」
ソファにごろりと横になる。
靴をぬげよ、とすかさず注意されるが、「はだしだよ」と言い返す。
返事はなく、掃除機のモーター音がうなりつづける。
天井をながめ、おとといの失態を思い起こす。
ケンの手にまかれた包帯をみていたら、もう、どうにもおさえていられなくなってしまった。
自分が黙っていたせいでの責任を感じたというよりも、『怖くて』すべてをはきだしてしまいたくなった、というほうが正解だ。
ちゃんとすべてを説明できた自信もない。
それこそこどもが怖い夢の説明をするように、ぐしゃぐしゃな情報だったはずだ。
なのに、みんなしんぼうづよくつきあってくれた。




