このまま二人で
「しかたないよ。 ―― だって、ジャンは気が利くし、強いし、頭もいいし、ほんとうにかっこいいし・・・。サブチーフとしてあいつがいないと班がなりたたないって、バートが言ってるし・・・ぼくは、あんなふうになれないけど、ちょっとでもみんなの力になれたらうれしいと思ってる。実際はお店の予約をとるぐらしいかできないけどね」
あきらめたように笑うのが似合わない。
髪の毛がさらにぐしゃぐしゃになるようにかきまわしてやった。
「おれが、そんなことないよ。 ―― とか言っても、なぐさめにならない?」
信号がかわるまで、じっとみつめあう。
デートする女性ともこんなことはしない。
「ううん。ありがとう、ウィル」
言って、頭からこちらの手をとると、こどものようにそのままにぎった。
すっかり顔色はもどっている。
いつものみとれるような笑みがうかび、「だいすきだよ」と宣言される。
わかっているというかわりにいちど手を強くにぎり、ぱっとはなした。
こんな目立つ車に乗っていたら、どこかのゴシップ雑誌の記者に気づかれるかもしれない。
「今日バートは?―― って、そっか、あいつとケンが今日の墓場当番か」
先日、警備官が補助にまわっていない場所で、またしても《墓あらし》がおこった。
担当の警察官たちが待機したまま眠ってしまうという失態で犯人は不明なのだが、眠ってしまったのはどう考えても《新手のガス》だろうという結論になり、装備が一段階あがり、ようやく警察官にも『最新の防護マスク』が配備されたときいた。
「なんか、バートたちも警察官のミーティングに呼ばれたんだって。 ジャンとザックはちょっと遠くにでかけるんだってきいたし。ルイはニコルのところで復帰祝いしてもらうって言ってたし、 ぼくもお店に片付けないといけない仕事があったから、それだけすませて帰ろうとしたら・・・」
そこでまたフードをかぶった。
せっかく忘れていたことを思い出させてしまった。
「じゃあ、このままおれとデートだな」
ようやく混んだ道をはなれ、幅の広い通りにでる。
「でも、本当のデートは?」
「あれはおしまい。たいして乗り気じゃなかったしね。きみと二人きりなんてひさしぶりだから、すこしはりきって、うちの両親と面会つきのデートなんてどう?」
「ほんと?」うれしそうに丸まっていた背をのばす。




