ジャンにいわれた
「・・・ほんとは車の所有者あてに、請求書が届くんだけど、・・・いいか坊や、もう、パパの車でドライブはしないようにな」
言って、レイの手からチケットを取り返した。
ウィルは驚いているレイの頭をたたき、「じゃあパパに報告にいくよ」と車にのせる。
取り締まり作業を続ける警察官に窓から顔をつきだして「ありがとう」というレイに、相手は照れたように片手をあげた。
あいかわらず混み合う道をゆっくりと進みながら、感謝の言葉を口にする代わりに言った。
「車の持ち主がおれだってわかったら、ほんとに倍の金額とられてたかも」
レイは眉をさげたままの顔だ。
「ごめんウィル。いたずらもされちゃったね。修理代、ぜったいに請求してよ」
ぼくのせいなんだからと隣のシートで小さくなる。
「じゃあ、来月お店の予約頼もうかな」
「そんなんじゃだめだよ。ぼく、―― 迷惑かけっぱなしなんだから・・・」
さらに小さくなる。
なるほど。だいぶ前に警備官と一緒にいて棚が倒れた『事故』を、自分のせいだと思い込んでいるようだ。
「あのさあ、そんなふうに思ってるのはレイだけだよ。さっきの警察官の態度みただろ?みんな、きみのこと助けたくなるんだよ」
「こどもだと思うからでしょ?いまだに高校生とおもわれることよくあるし」
「それを《さかて》にとったきみが、さっきみたいにぼくを助けてくれるってわけだ」
フードをとったときからぐしゃぐしゃだった髪をかきまわす。
レイは照れたように「ちょっとは役に立った?」ときく。
その聞き方に苦笑するしかない。
「いつだって。―― あのさ、『役にたつ』ってなに?」
そのいいまわしは好きではないと何度も言ってるのに、彼はいつも確認したがる。
もしかして、と思いつく。
「それってむかしジャンに『役立たず』っていわれたせい?」
「え?」真っ赤になって何もいえなくなるってことは正解だ。
あの男がこれを知ったら地の底につくぐらいヘコむだろう。




