思ってもいない
どうやら震えはおさまったようなので、顔をのぞきこんだ。
ちょっとだけ顔色は戻っている。
そこでようやく思い出した。
「 だれか呼んだ?まさかまた遠慮してよばなかったのか? へんなやつにつけられてるときは、必ずだれかに連絡するようにって何度もいわれてるだろ?」
それは、《A班のお約束》ってやつだ。
「ごめん。つけてきてるのが、あいつだってわかったら、手が・・ふるえて・・・携帯電話、落としちゃった・・・ まさか、あいつが《いる》なんて、思わなくて・・・」
おれも思わなかったよ、と口に出さず同意する。
どういうことだ?ジャンは知ってたのか?『あの男』が『外』にでてるのを。
「とにかく、送るよ」
フードに守られたレイの頭をたたき、路地からでる。
車をとめた場所がみえたとき、思わず舌をうってしまった。
警察の交通課の車両がとまり、若い警察官が二人、路上駐車違反を取り締まっている。
路上駐車のメーターは、近年《自動感知式》にかえられつつあるが、このあたりはまだ手動のものが多く、ウィルはメーターを倒した記憶がない。
置き去りにした女が倒してくれているわけもなく、しかも、―― 。
「あの、クソ女」
美しい車体の側面に、くっきりと太い傷がはしっていた。
 




