サリーナの《あいさつ》
「あたしの、作戦が、『ひま』?」
「いや、だから、えっと、サリーナの部隊なら失敗はないだろうし、むこうの人数に対してこっちは多かったし、失敗しようがないと思ってたんで」
「あたしと一緒の仕事は真剣にやらないってことかい?」
「いや、そうじゃなくて・・」
ザックがあわててルイをおしのけ、姿勢をただす。
「すみません。おれが、待ち伏せする作戦にあがってて、そんでルイが緊張をほぐそうとしてくれたんです」
横に立った『新人』を女はにらみあげ、さきほどルイにせまったのと同じ距離でつめよった。
「ふん。 お互いかばいあえばいいってもんじゃないよ。あんたたちみたいなのが、作戦を全部ダメにするんだから」
「はい」
この女が扉をけやぶるのを目にしていたザックは素直にうなずく。
「・・・あんたらさあ、こういう子はもっと鍛えてやらないと。もったいないよ」
そういって額を、トン、と指で突かれた。
途端に力がぬけくずおれそうになるところを、ぎりぎりのところでケンに腕をひかれ、どうにか身をおこす。
「な、なに、いま、」力がまったくはいらなかった。
まるで彼女の指にすべて吸い取られてしまったように。
「サリーナの《挨拶》さ。 倒れるのが普通。男の精気を吸い取ってるらしいから」
ルイの言葉に、「倒れないのは精気がありあまってるのか、もしくは、もとからない男だけだよ」と意地の悪そうな笑みを浮かべた女が、じっとルイをみた。
「どうした?顔色悪いじゃないか」
「あはは。ちょっとこのところ・・いそがしくてさあ」
いつものようにのんびりと答えるのに一瞬目をすがめた女は、ケンに視線をながし片手をあげた。
「『新人』の素直さに免じて、今回だけはジャンにチクらないでおいてやる」
「やさしいなあ、サリーナは」
ルイの言葉に片頬の笑顔をかえした女は証拠品を積んだバンにのりこみ、去っていった。