予定はキャンセル
この街は観光でなりたっている、とウィルがつくづく思うのは、中央劇場へと続く大通りと、そこへつながる道のどこを通っても車があふれかえり、駐車スペースはいつもふさがっているのを確認したときだ。
「ねえ、あそこが空くわ」
女がゆびさした場所から車がでてゆき、ウィルはすばやく自分の車をその白線の中にすべりこませた。
大きなエンジン音をさせて停まったその車は、車体の大きさにみあわずに、人が乗れる空間はせまく、エアコンの効きは悪い。
ドライブに誘った女は一様に車を変えるようにすすめるが、ウィルにその気はない。
それが原因で恋人と長続きしないのもある。
前後に停まる車すれすれでおさまったのを確認して、横に座った女が、これからまわりたい店の名を並べるのに微笑みながらうなずくのを忘れないようにする。
後ろをみずにいきなりドアをあけて降り立った女は、すれすれで通り過ぎた配達自転車に汚い言葉をなげつけた。
ま、そんなもんだよね
自分が女性に対して淡い幻想をいだいているとは思わない。
性格の悪い姉がいるため、世の中の女というものがどういう生き物なのかだいたいの察しは十歳になるころにはついていた。
女嫌いにはならなかった。
むしろ、多くの女性とさまざまなお付き合いをしてきたという自負がある。
そのうえで、女性はかわいい、と思ってもいる。
が。
「 ―― わるいけど、ちょっと急用がはいっちゃった」
「え?なに?いつ?」
先月のパーティーで会った彼女は、どこかの企業の誰かの秘書だと言っていた。
反対側のドアからおりたった男をいぶかしげな笑みをうかべたまま見上げ、どういうこと?ときく。
「これからの予定はどうなるの?」
「キャンセルってことで」
前髪をはらいむこうの通りに目をやり短く答える。
「はあ?なにそれ。 ま、いいわ、また今度で」
次の休みはいつごろかと聞く女に、「それが、わかんないんだよねえ」と手をふりながら車をはなれる。
女の大声を無視して渋滞する通りを横断した。




