見てないけど『知ってる』
ヒルダ・マクベティのはなしをききおえて、口をまげたザックがまっさきにきいた。
「それって、ルイのママが殺されたとき、あんたがそこにいたってこと?」
「と、いうか、そもそも『カラスに殺された』っていうのは、本当なんですか?」
新人の口の悪さを注意するのもわすれ、ジャンが腕をくんでうなる。
はじめに通された部屋へもどると、マクベティはもう庭をながめることなくはなしだした。
それは、とりみだしたルイからきけたはなしよりは詳しかったが、まだ肝心なことがわからない。
「 ―― ルイが言うには、母親が死んだのをあなたから告げられ、驚いて部屋へ駆け込んだら白い鳥がとびまわっていて怖くて気を失った、と言っていました。 後年あなたから、それが《白いカラス》で、その鳥に母親が殺されたのだと、教えられたと」
「それは、幼いルイが混乱から自分を救うためにつくったはなしね。 ―― あの日、わたしがセリーヌの部屋で、亡くなった彼女とルイをみつけたの。 部屋に鳥はいなかったし、彼女は窓の近くに倒れていて、ルイはベッドの下で眠っていたわ」
ベッドの中じゃなくて?とザックが確認する。
「下よ。 ―― でもあれは、眠っていたんじゃなくてきっと気を失ってたのね。 起きたらその前のことは何も覚えていなかった」
「じゃあ、あんた、殺されるとこみてないんじゃん」
「見ていなくとも、『知っていた』のよ。―― セリーヌはずっと、『白いカラス』におびえていた。 どこかで鳥が鳴いているのがきこえただけで、心臓が縮むって言ってたから、わたしもはじめは鳥のアレルギーなのかと思ってた。 ・・・だけど、そのうち話してくれたの。 『怖いのは、白いカラスだ』ってね」
白髪の女は、さきほど娘がもってきてくれたお茶をカップにそそぎ、警備官二人にも飲むかときく。
断わると、香りを楽しむように口をつけた。




