あなたのおかあさん
ヒルダは自分の娘が子供のころに読んでいた絵本や、新しい本をたくさん携えて通った。
ふだん、本屋や図書館に行ったことのない子供は、目を輝かせてページをめくり、字を覚えるのも書けるようになるのも早かった。
半年もしたら、ベッドでよこになる母親に自分の絵本をよんであげられるほどになった。
ヒルダや料理番の夫婦に、大きさのそろわない文字で手紙を書いてくれるようになり、学校に通うのが楽しみだと言い始めたころに、セリーヌの容体がさらに悪くなった。
心臓が悪いのだと聞いていたが、胸をおさえて息をととのえることが多くなった。
驚いたことに主治医はいなかった。
ヒルダが何度自分のすすめる医者にみてもらうよう言ってもうなずくことはなく、自分の死期は静かに受け入れたいと微笑んだ。
これについては意見が合わずに何度も『ルイのために生きなさい』と言ったのだが、彼女は困ったように微笑むだけだった。
だからかもしれない。
ルイは、まだあんなに幼かったのに、母親が死んだということを、ちゃんと理解して、受け入れたようだった。
もちろん泣いたし、遺体にすがったし、もう絶対に目をあけないの?ときいてきたが、葬儀後に『ママはいつもどるの?』とはきいてこなかった。
だから、ルイが大きくなって、母親の墓参りに行ったときに、きちんと教えておこうと思ったのだ。
あなたのおかあさんは、《白いカラス》に殺されたのだと。
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