ルイという子ども
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ルイ・アヌエルはかわいらしくおとなしい男の子で、少しあまえんぼうだった。
母親のセリーヌは少し体が弱いが、意思のはっきりとした人で、上流階級の女性らしい優雅さよりも、強さを好んだ。
だから、自分を雇ったのだとヒルダ・マクベティは思った。
彼女の世界は夫をなくして一変したが、実家の母の協力もあって法律の勉強も続けられた。はやくにもうけた一人娘も、もう成人になり手がかからない。
いまの大学講師をやめて、検察官をめざそうと思っていたやさきに、いきなり、こどもの教育係になってくれないかという話がきたのだ。
法律学校の講師を通じて。
「とある上流階級の奥様なのだけれど、息子さんと二人暮らしでね。彼を賢い子にしたいっていうはなしなのよ」
その講師もまた、こどもと二人で暮らす女性の弁護士だった。
境遇が似た女たちがつながって自分のところにきたはなしなので、それほど違和感もなく会いに行ったのだ。
思った通り、ヒルダとは気も合い、こどももかわいかったので、すぐに受けることにした。
ルイはほとんど自分のことは自分ですることができ、住み込みで料理番と庭番をする老夫婦とも仲が良く、行儀のよいこどもだった。
のんびりとした性格で、庭番の仕事をずっと見て一日すごすことも多かった。




