聞こえてます
ジャンが女たちをザックのほうへやり、音がした祭壇のほうへ近寄る。
風がはいるわけはないのに、祭壇にあるろうそくの火がゆれている。
ガシャン
「なんだよ?」
何が当たってんだよ、とザックはジャンをみる。
「・・・ねえ、あなたがた、もう少し窓のほうによってみてくださる?」
マクベティは不安げなザックの肩をおし、ジャンといっしょに祭壇のほうにおしやる。
すると、
グウアアアウウ
いやな鳴き声を残し、気配が消えた。
なんだったんだ、とザックが怒った声をだし、部屋はまたあかるくなる。
腕をくんだ白髪の女が椅子に腰掛けるようにすすめる。
「いまのは、ルイの母親であるセリーヌを殺した『白いカラス』です」
あたりまえのようにいう女の肩を、娘のアンがそっとなでる。
「おかあさん、落ち着いて。 ―― 母は、この話をするとき、すごく《神経質》になるの」
「アン、あなただって何度もいまの音を聞いてるでしょう?」
「・・・いいえ。ごめんなさい。 ―― あたしには、なにもきこえない」
きこえない?
ザックはあわててジャンをみた。
ジャンも驚いた顔でザックをみている。
アンは警備官の様子にきづかないようにつづけた。
「でも、電気がいつもおかしくなるのは知ってるし、見てるわ」
だからきっと、音もしてるのね、と自信なさげに部屋をみまわす。
「おれ、きこえたぜ」
ザックが手をあげ、しかたなさそうにジャンもあげた。
ギャラガー夫人がびっくりした顔で二人をながめ、母親の肩をつよくなでた。
「ほら、言った通りでしょ? ダンがぜったいに警備官のA班だったら、お母さんのはなしもわかってくれるって言ってたもの」
「それって、誉め言葉?」
ザックがうれしくなさそうに首をかしげた。




