みんなあの部屋へ
えっと、とジャンがくわしいことをききだそうとしたとき、急に女は立ち上がる。
「 アン、みんなあの部屋へ 」
向きをかえ、さっさと部屋をでてゆく。
「この方たちも?」
娘は警備官たちにとまどったような顔をむけた。
「当然よ。ほら、いそいで」
先に階段のほうへむかう白髪の女の背をながめ、アン・ギャラガーは警備官に声をひそめて、てばやく伝えた。
「驚くと思うけど、母のこと信じてあげて」
なんのことかわからなかったが、ザックは大きくうなずいた。
広い階段をのぼり、右手に折れてむこうの奥にあるドアへ進んだ。
いきおいよくあけ放たれたドアのむこうには、またしても白い彫像がみえた。
さっきの部屋にもあったその像は、ザックをもやもやとした気分にさせた。
「なあ、聖堂教の像だよなあ?」
問いにうなずくジャンも、いやそうに頭をかいている。
部屋はまるで、聖堂教における祈りの場のようだった。
何脚かの椅子がむいたむこうには教会並みの大きな祭壇があり、『神』の象徴の金色の像がおかれ、そして、なによりもザックを落ち着かなくさせた『神の遣い人』の像が、さっきの部屋とおなじようにあちこちに置かれている。
下の部屋ではテーブルの上や床に大小いりみだれ置かれていた彫像たちが、ここでは部屋の壁に沿っておかれている。
「窓は祭壇でふさぎました」
マクベティは部屋にはいると残りの三人にはやく部屋に入るよう手招きした。
窓がないこの部屋は祭壇と彫像のせいで、閉ざされた異質な教会のようだ。
不安げに部屋をみまわすザックに、ドアのカギをかけてこれをノブにかけるように、と女は香炉をわたす。
いわれたとおりにしたとき、部屋のあかりが、接触が悪いようにちかちかとゆれた。
「 だいじょうぶ。祭壇に火のついたろうそくがあるわ。それに、なんだか―― 」
節くれだった指でジャンとザックをゆっくりさした。
ガシャン
ふさいだという窓に、なにか当たった音がして、ザックは身構える。




