影
晴れてきもちのいい日だった。
買い物袋を抱えて信号を渡ったとき、急に。
なんの気配もなかったのに。
黒い影におおわれた。
背後からのそれは、肩を、腕を、顔を、いっぺんで陽射しからさえぎり、ルイだけを暗い影にとりこんだ。
くらい
と感じたときに、耳のそばで羽が打ち合わされ、まきおこった風が頬と髪をなでる感触をのこし、《それ》は、頭の上すれすれをすぎた。
身をかがめたルイをのこし、いつのまにか、ほかの通行人は信号をわたりきり、自分だけがほうけたように上を見上げていた。
低い建物の間からよくみえる空には、鳥のすがたなどどこにもない。
クラクションにうながされて信号をわたりきり、あたりをみまわしたが、やはりそれらしい鳥はみあたらない。
しばらく首をひねりながら自分の家をめざせば、アパートメントの建つ区画前の金網に、カラスがとまっていた。
それも、五、六羽。
ルイが通るのを見送るように顔をむけた鳥たちは
ググアアア
と鳴くと、一斉に飛び去った。




