ひさしぶりにそろった
ザックがその店に入るのはまだ数度目だった。
いわゆる高級料理店。
いままでまったく縁もなかったそんなところで、自分が所属する班員たちが《ミーティング》をするときいたとき、その金銭感覚に寒気がしたが、すぐに、班長のツテで安く使えるらしいことがわかり、その『ツテ』というのが、班長と同居していた『レイ』だと知った。
だがいまだにその『安く』がどれほどの値段なのかは知らない。
なにしろまだ、自分で支払ったことがないからだ。
ザックがウィルにきいたところでは、ウィルもデート以外のときに自分で払ったことはないという。
どうやらここは結局、特別の時にしか使わない場所のようだ。
その、《特別な時》が、またきたらしい。
店の中の見覚えのあるその部屋は、ザックがはじめてここにきたときつかった場所で、あのときと同じように大きな窓は分厚いカーテンでかくされ、たれさがった大きなシャンデリアの明かりが、場違いな格好の男たちを照らしている。
みんな警備官の制服を着ていた。
広い部屋の真ん中に据えられた長テーブルには、片側六脚ずつ背の高い凝ったつくりの椅子があるが、それをあちこちひっぱりだし、みんな離れて座っている。
テーブルには白い布がかけられ、花も燭台もあるが、これからここで食事会がはじまりそうには思えない。
「 ひさしぶりにそろったっていうのに、なんの感想もなしか?」
この部屋にはいってから誰も口をあけないのを茶化すようにジャンがみんなの顔をみてゆく。
「いまさらだろ。だいたいおれの病室で会ったばっかだし。 ―― あ、ルイは会わなかったな」
Tシャツの上にだらしなく制服を羽織ったケンは、にやけて頭の上で手を組んだ。
左手はまだ包帯で巻かれたままだ。
「 ―― 見舞いにいかなくて悪かったよ」
ケンと対角線上になる場所に陣取った男が、すまなそうに顔をむける。
「そうそう。ケンが『入院』してるのなんてこの先もみられるかわからないから、みんな競って観に行ったのを、『見舞い』って言ってるんだけど、 ―― それでもちゃんと、みんなにお礼をいえたのが、ケンはえらいね」
ウィルがこどもをほめるように、うなずきかける。
「うるせえな。レイが、・・・みんなにちゃんと言えって」
むすっとした言葉が返され、笑いながらザックも思い出す。
ニコルと一緒に病室に行ったときに、「たすかった。ありがとな」と、まるで予期していなかった言葉をさらりと言われ、ニコルは嬉しそうにケンの頭をたたき、あせったザックは「いや、どういたしまして」なんておかしな言葉をかえしてしまった。




