ギャングの争い
『墓場の監視補助』もA班はこの一週間で四回ほどでているが、いまのところ当たりにでくわしてはいない。
ただ、ウィルのいう『ひとけのない暗い場所』がすきなカップルを何組か注意し、前にサリーナたちと捕まえた薬の売人の残りを捕まえた。
去年、警察官と警備官であたった殺人事件の捜査の中で、《コザックファミリー》というギャング団の薬の販売網をつぶすことができたのだが、今はそのギャングの残りと、別のギャング団二つほどの縄張り争いがはじまり、ややこしい事態になっていた。
「『コザックファミリー』の薬の製造場所は完全におさえたんだが、レシピをもった奴が『バグ』っていうガキの集まりみたいなギャングのとこへ行って、そこでまたつくりはじめやがった。 それを、生き残ったコザックのやつらとガキどもで売りさばいてるのさ」
久しぶりにあった警察官防犯部の男は口ひげについた砂糖をはらいながら顔をしかめた。
白髪のまじる髪をきれいになでつけた少々猫背のノアは、警察内では『情報通』としてしられ、現役で一番の年長者だ。
「もともと『バグ』ってのは、コザックより小さい『カシワファミリー』ってやつらの分団みたいな感じだった。 《ファミリー》に入るほどじゃないが、悪ぶったことをしたいってガキどもの集まりで、カシワのやつらがバックについてる。 ―― ところが、今度の件があって『バグ』は《コザック派》と《カシワ派》にわかれた」
「だろうな。《コザック》のほうが販売の範囲は広いから金はもうかる。 だが、世話になってたのは《カシワ》のほうだから本来はそっちのルートで売るべきだっていうやつもいるだろ」
テーブルのむかいでコーヒーを飲むジャンは、皿の上の最後のドーナツに太い指がのび、つまみあげられたそれがあっという間にノアの口の中へと消えるのを見届けた。
「 まあな。 ほぼ解体されてた《コザック》の縄張りを狙ってた《カシワ》にしてみれば、死に損ないがいきなり生き返ってこっちにむかってきたようなもんだ。 しかも、子分に自分のファミリーだったはずのガキを連れてる」
ノアは口を紙ナフキンでぬぐい、ドーナツをコーヒーで一気に流し込むと満足そうにうなずき、身をのりだした。




