『やりすぎだ』
「本当に狙われたんなら、すぐにそういうさ。・・・ただ今回の事故は、―― ほら、ちょっとあいつの過去の体験をよびおこすことになったから・・・」
ジャンは自分の言葉に心がいたむ。
これはあきらかな嘘だ。
エバは息を吸うように口をおさえ、「おお、ごめんなさい。なにも知らなくて、その、《あの》ケンが入院することになるなんて、なにかテロの攻撃をうけたんじゃないかって噂がたってるものだから・・・」と、テーブルの男たちをみまわした。
ザックは顔がゆるむのをどうにかおさえ、みんなの真似をしてうつむく。
「 どうしよう。有志でつのったから、こんなふざけた『花』になったの」
エバは後悔するように持参した『籠』をしめす。
『籠』の中身は、軍隊用の簡易食品がつめこまれていた。
ジャンがわらいながら、だいじょうぶだ、とうけあう。
エバは動揺したように、病室には本物の花を持って行ったことと、自分は病室で騒ぎすぎたかも、と目をうるませた。
「エバ、エバ、落ち着いて。 きみの真心がわからないほどケンは鈍感じゃないだろ。ほら、マークも来てにぎやかになったんだろ? そういうのがいいんだ。『普段とかわらず』がいちばんだ。さあ、―― ビルの店のジュースでもどうだ?」
席を立ったニコルがエバの肩をだきながらむこうへゆく。
一度振り返るとジャンにむけ、『やりすぎだ』と声をださずに指をつきつけた。
失敗をみとめた男は天井をあおぎ、じゃあなんていえばいいんだ、と目をとじた。
テーブルに積まれた小銭はケンに見舞いの品を買ってくれという通り過ぎた社員の善意だ。
それを袋につめて食堂の主であるビルに「いつもの寄付で」とおしつけたザックは、ニコルとエバに片手をあげてから、みんなの後を追った。




