『墓あらし』
「 それじゃあ、今日警察官から《要請》のきた新しい事件に目をとおしてくれ。 とりあえず確認だけしたら、明日は普通に休みだからよ」
ぶあつい封筒をニコルへわたす。
窓際の古い布張りのソファをみつけたジャンは、奥で寝ているというルイの様子をきいてから、紙の資料を指ではじいた。
「急ぎの《要請》じゃあないんだが、明後日から夜、監視の『補助』にでる」
「これって・・」
ザックはまわってきた資料に目を通すと、ケンをみた。
三人でさきほどまでいた墓地の写真がある。
「ああ、おまえらサリーナとさっきまでここにいたんだもんな。 ―― けど、あの件とはまったく関係ねえな。《墓あらし》がでてるんだ」
「『墓あらし』い?」
聞きなれない言葉をザックはなぞった。
「ええと、それって、昔よくあった貴族の《墓あらし》と同じ?」
この頃はきかないけど、とウィルが顔にかかる髪をはらう。
いいや、と首をふるジャンの横で、ニコルがザックに説明してやる。
「昔の『貴族』様は死んだあとも大事なもんをはなしたくなかったのさ。 宝石だとか剣だとか、遺言で指定したお宝を、遺体と一緒に棺にいれてやった。 それを狙って貴族の墓を《掘り起こす》のがはやってた。 今じゃ『上流階級』でも同じようにお宝をいれるのが普通だ」
「そのせいで、だんだんと墓が《金庫》みたいな箱になっていったんだよ」
礼拝堂じゃない、ばかでかい建物が墓地の一番奥にあるのみたことないか?ときかれ、ザックはなんとなく思い出す。
「荒らされてるのは貴族の墓じゃねえんだわ」
副班長は資料をゆびさした。
「 ―― 今度の墓あらしは、どういうわけか上流階級層の墓場をあばいてまわってる。うん、そうなんだよな。 正確には『荒らされてる』んじゃなくて、『あばいて』まわってるっていったほうがいいな」
自分の言葉にうなずく。
『あばいて』ってどういうことかと小声でニコルにきこうとしたのに、ウィルにみつかり、「ザックが詳しい状況報告をもとめてるみたいだよ」といわれてしまった。
ああ、と馬鹿にするでもない顔でジャンが、「棺を掘り出して、蓋をあける、ってだけ、ってことだ」と資料の写真をみるようにつけたす。




