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風の少女と呪いの絆1  作者: たき
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 その夜、リリーは両親から、二人が過去に暗黒神と関わった話を聞いた。ある魔物退治の際に受けた呪いがもとで、母が暗黒神の信者の目にとまり誘拐されたこと。そして仲間を助けるために父は暗黒の法を唱え、また学院に充満した邪気を一度体内に取り込んだことを知った。

 自分から好んで暗黒神とつながったわけではなかったので、リリーはほっとした。いまわしい絆がリリーにも受け継がれてしまったことを母は悔やんでいたけれど、大丈夫だとリリーは答えた。自分には父も母もいる。きっと乗り越えていけるからと。

 リリーの両親が暗黒神と縁を結んでいたことは、あのとき礼拝堂にいた教養学科生の口から漏れ、学院内に瞬く間に噂が広まったが、当時二人が仲間とともに学院を守ったことを学院長が伝えると、陰口を言う者はいなくなった。

 その後の調査で、産休代員として来るはずだったオーメン教官が、暗黒神の信者と入れ替わっていたことも判明した。本物は偽物の家で監禁されており、信者となるべく洗脳されかけていたが、ぎりぎりのところで救出が間に合ったらしい。

 マイカたちやトープとは、あれから一度も話をしていない。リリーと目があうと、相手のほうがこわばって逃げていくのだ。ただ、今までリリーを遠巻きにしていた他の教養学科生たちとは、少し言葉をかわすようになった。

「編入試験、受けるのね」

 再び一緒に登校するようになったセピアが、よかったと手をあわせて喜ぶ。隣を歩くオルトも聞いた。

「いつ受けるんだ?」

「実は今日の放課後なの」

 リリーの希望を両親が学院に申し出たのは昨日だが、準備はできているからすぐにでもと言われたのだ。もう編入後の時間割作成や補修時間の確保もしていると聞き、リリーは驚いた。まるで自分の行動を、学院側は最初から読んでいたかのようだ。

 編入試験といっても、学力試験は全学科共通だったため、成績優秀だったリリーは再試験を免れた。あとは神法士として十分な術力があるかどうかの適正検査だけだが、これも問題なく通るだろう。

「リリー、神法学科に編入するの?」

 話が聞こえたのか、レオンとフォルマ、ルテウスがやってきた。風の法専攻生の人数は毎年少ないらしく、担当のロードン教官や風の法専攻生が嘆いていたから、絶対に歓迎されるよとレオンが微笑む。

「一応確認するが、まさかお前も『神々の寵児』ってことは……」

 どこかおそるおそるといった感じで尋ねるルテウスに、「それはないよ」とリリーは即答した。『神々の寵児』は血で受け継がれるわけではない。他の法術も試してみたがまったく使えなかったのだ。

「ねえ、提案があるんだけど。この間一緒に戦った七人で、『冒険者の集い』に参加してみない?」

「いいねえ、面白そう」

 セピアの意見にレオンがさっそく賛成する。フォルマとルテウスも承知したが、オルトが渋い顔をした。

「七人って言うと、ソールも誘うのか?」

「俺が何だ?」

 後ろからソールが声をかけてくる。げっとオルトがうめいた。

「この七人で冒険集団を結成しないかって話してたの」

 セピアが説明する。沈黙するソールに、リリーは小首をかしげた。

「もう他の冒険集団に入っちゃった?」

「……いや。ただ、ちょっと父さんに相談してからでいいか?」

「お前んとこは、何かをするのにいちいち親父の許可がいるのかよ」

 あきれた様子のルテウスに、「そういうわけじゃないが」とソールは言いよどんだ。

「うち、母親がいないんだ。三人目の出産がうまくいかなくて、そのまま……だから今、夕食は俺が作ってて」

「最近は妹も料理を手伝うようになってきたから、もう少ししたら買い物と下ごしらえくらいは任せてもいいかとは思ってたんだが」と答えるソールに、セピアが感心と同情のこもった目を向ける。

「ソールって、意外と苦労人だったのね」

「もしかして、中央広場で話をしたときって、帰りが遅くなったんじゃ……」

「いや、あー……」

 心配するリリーにごまかしかけたソールは、リリーを見つめてから、くしゃりと笑った。

「そうだな。帰ったら、腹が減ったと妹に怒られた」

 やっぱり、とリリーは青くなった。

「あの日は父さんもいつもより早く帰ってきたから、ご飯がまだできてないならと久しぶりに外食したんだ。だから気にするな」

 それでも申し訳なさに落ち込んだリリーは、「俺もお前と話したかったし」というソールの言葉にドキリとした。

 話をしたかったと言われただけなのに、どうしてこんなに鼓動が速くなるのだろう。

「じゃあ、ソールはお父さんに確認するとして、話し合いの場所がいるわね。昔お父さんたちが使ってた町の闘技場はどう?」

 ついでに『冒険者の集い』の申し込み書ももらってくるわというセピアに、全員がうなずく。

 それから七人は中央棟へと向かった。こんなにいろんな学科生がひとかたまりになって動くのは珍しいからか、周りが道を開けながら注目してくる。特に、武闘学科一回生でも有名なオルトとソールが一緒にいるので、よけいかもしれない。自然と並んで歩くソールの横顔をちらりと見上げたリリーは、目が合って慌てた。

 リリーのうろたえぶりがおかしかったのか、ソールが口元をほころばせる。

 初めて胸にともったこの感情にとまどいながらも、大切にしたいとリリーは思った。

    

閲覧ありがとうございました。これで1巻は完結です。

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