救いを求めて地獄に向かって進んでいく
「…………少ねえ」
手にした配給の食料。
その量に不満を漏らす。
一年前に比べて明らかに少なくなってる。
一日一日で見ていけば、それほど違いがあるようには思えない。
だが、少しずつ少しずつ配給量は減っている。
時間が経てばその差がはっきりとしてくる。
なんとかしてくれ、と思う。
会社を解雇され、貯金もなくなり浮浪者に。
再就職もままならず、日雇いの仕事も見つからない。
なんとか配給で生きてる状態だ。
これで配給が減ったら命にかかわる。
「俺たちが死んでもいいのかよ」
文句が出て来る。
鳴りたくて無職になったわけではない。
働きたくないわけでもない。
なのに解雇されて家も追い出され、配給にたよるしかない。
「労働所に入れればなあ……」
浮浪者専用の作業所である。
国営の工場というべきもので、そこで働くなら食料は配給以上に提供される。
粗末ながら部屋もある。
風呂とトイレは共用だが、野宿よりは良い。
当然、競争率は高い。
望んでも入所出来るわけではない。
希望を出してはいるが、受理されるかどうか。
「それまで生きていられればいいけど」
悩みは尽きない。
しかし、彼は一つ勘違いをしている。
知らないといった方が良いだろうか。
配給を含む福祉は拡充され続けている。
増え続ける浮浪者を支えるために。
どれだけ福祉予算が増えようとも、浮浪者も増大している。
一人当たりにかけられる予算が自然と減少している。
それが配給品の減少にもあらわれている。
その為に増税につぐ増税が行われている。
消費税は20パーセントを突破して30パーセント。
まだまだ上がる気配をみせている。
所得税も最低課税率が40パーセントにあがったばかりだ。
最高課税率は80パーセントになろうとしてる。
法人税も50パーセントに上昇し、されに増加しよう国会で話し合われている。
税金だけではない。
国民保険や国民年金の賭け金も増大している。
他にも様々に増加した社会保障費が一人一人にかけられている。
全ては福祉を充実させるために。
こうなると、給料がいくら高くても手取りは大きく減少する。
まず、会社に入る金が法人税で大きく取られる。
手持ちの資金が減ってるのだから、当然雇用を減らさないとやってられなくなる。
更に各種税金と社会保障費などなど。
これらを支払ったあとも生活出来るだけの手取りが残らねば生活出来ない。
そうなると、一人当たりに支払う給与の金額は大きくなる。
今では平社員でも給与が月収100万円に至ることも珍しくない。
ただ、手取りはそこから税金・社会保障費を引かれて、月収20万円以下になる
これがまた、社員削減につながっていく。
毎月一人に100万円を支払うのだ。
会社の負担は大きい。
その金額を出すために、どうしても社員の数を限定しなくてはいけない。
おかげで解雇が横行する。
そもそもの採用枠が減少する。
それでも福祉の充実にはほど遠い。
政府はこれを解消するために更に税金をかけようとする。
さすがに経済界がこれ以上は無理と言ってるので控えてるが。
何かしら理由をつけ、機会を見つけて負担を増大させようとしている。
そんな政府に見切りをつけて、外国に産業拠点を移す企業も多い。
税金を含めて負担の小さい国は多い。
そちらの方が稼げる、利益があげられるとあれば、企業がためらう理由は無い。
それが更に雇用枠を減らしていく。
当然、税収も減っていく。
会社が減少してるのだ。
働いて稼ぐ場所がないのだから、利益も当然減る。
利益から支払う税金も無くなっていく。
「なんとか配給増えないかな」
男の願いはかなわない。
配給品は今後も減っていく。
「国は何をしてるんだよ」
やる事をしっかりやっている。
やった結果、仕事がなくなり、浮浪者が増えている。
しかし、願い通りに配給をはじめとした福祉を国は充実させようとする。
その結果、更に浮浪者が増える状況が拡大されていく。
破滅に至る道を全員で全力疾走している。
何が悪いのか、どうしてこうなってるのか気付かないままに。
最善と思って最悪に向かっていく。
やがて配給もなくなる。
飢えて死ぬ者が増加する。
そうならないよう、他人から奪う者が出てくる。
奪われまいと応戦する。
それが拡大していく。
国の滅亡はほどなく訪れた。
気に入ってくれたら、ブックマークと、「いいね」を
面白かったなら、評価点を入れてくれると、ありがたい