陰キャちゃんと陽キャくん ~ 君と話しがしたいんだ ~
「よっしゃ!メシも食ったし、バスケしてこようぜ!」
「おま、待てよ!俺まだ食ってねーよ!」
「俺が先行って場所とりしてくるから、お前はさっさとゆっくり食っとけ!」
そう言って、高山君は教室から出て行った。
高山香月君は、明るくて老若男女に人気があって、いつもたくさんの人たちでできた輪の中心にいるような人。
かっこよくて笑顔が素敵で…私の憧れの人。
(私も高山君みたいに笑顔が素敵な人になりたいな)
高山君を見るたび、そう思う。
私はいつも教室の隅っこでひとり読書していて、そろそろ高校生になって半年になるのに、友達が未だにひとりもいない…いわゆるぼっち。
明るくていつもたくさんの人に囲まれてる高山君。
無口でいつもひとり教室の隅っこにいる私。
同じ教室の中にいて、同じ人間なのにこんなに自分と正反対の人がいる。
なんだか不思議でおかしくて。
教室の隅っこの自席で本を読みながら、そんな私とは正反対の世界にいる高山君を時折ちらっと見ては、
(いいなぁ…私もあんな風になりたいな)
と思うのだった。
☆
ある日の放課後。
いつものように誰もいなくなった教室でひとりぽつん、と読書していた。
すると。
─────ガラッ。
教室のドアが開く音がして、その方を見ると。
「あ、神崎さん」
まさかの憧れの高山君がいた。初めて、高山君に名前を呼ばれた。
「あっ…」
私は何だか動揺して、とっさに視線をサッと、高山君から開いた本の中に反らせた。
(うわぁ、感じ悪くなったよおっ!せっかく憧れの高山君に初めて私の名前を呼ばれたのに!)
本を読むふりしながら、内心は私の高山君への態度で後悔していた。
高山君は教室に入ってくると自席に行き、机の中をゴソゴソと探る。
「あーっと…読書の邪魔してごめんな。明日提出の数学の宿題忘れちゃって」
「あ、え…ぃぇ……」
(ああもう、そこは「そんなこと無いよ」とか言うところでしょ!もうちょっと頑張れ、私っ!)
開いた本に視線を置きながら、心の中でひとり叫ぶ私。
すると。
「…ねえ、その本面白い?」
「…え?」
「えーっと…来月から夏休みじゃん?夏休みの宿題に読書感想文があるとかって話でさ。でも俺、本読むの苦手で。小学校も中学校もいつも読書感想文だけ提出できなくて先生に怒られてたんだ。でも、今回こそは読書感想文をちゃんと提出したくて。だから…その、いつも本読んでる神崎さんだったら、面白い本とかおすすめの本とかたくさんあるかなって…」
そう、高山君が言うと、私は。
「…!あるっ!いっぱいあるよ!おすすめの本!この本も面白いけど、おすすめの本いっぱいあるよ!一番のおすすめは「貴方の身体借ります」っていう、幽霊の女の子がとある男の人の身体を使って、いろいろイタズラしたりするラブコメディーなんだけど、その女の子が…あ、あんまり話したらネタバレになるよね!あでも、男子が読むなら恋愛ものじゃなくて、ファンタジー系がいいのかな?それとも───…」
本が大好きな私は、本のことを振られてつい、何故か席を立ち、鼻息荒く興奮しながら憧れの高山君にペラペラと話してしまった。
「あ…ごめんなさい。ひとりでペラペラ話してキモいね」
(うぅっ…しにたい)
泣きそうになりながら、静かに着席すると。
「…あの、さ、明日の放課後は…ヒマかな?」
「…?ヒマですけど…」
「じゃあ明日の放課後さ、一緒に図書室行かない?その…今神崎さんがおすすめしてくれた本と、他にもおすすめな本があったら教えてほしいな~…って」
頬を指でポリポリとかきながら、高山君はそう言った。
「あ、無理なら無理でいいから…」
『ごめんなさい。無理です』そんな言葉が私の喉元まで上がってきた。けど、その言葉は私の本当の言葉じゃない。私は高山君と一緒に────
そして。
「いっ、いい…ですよ。その、わっ、私なんかで良ければ一緒に…」
(やった…言えた!カタコトだけど、言いたいことが言えた…!)
勇気を振り絞り、私は高山君に言いたいことが言えた。嬉しくて何だか涙が込み上げて、目尻がちょっと濡れた。
すると。
「─そっか、良かった。じゃあ明日放課後また!」
高山君はキラキラと嬉しそうに微笑み、何故か明日提出の数学のノートではなく、科学のノートを握って走っていった。
いつもキラキラとした笑顔の高山君。だけど、何だかいつもよりキラキラとしているように見えたのは気のせいかな?
それよりも。
「憧れの高山君と初めてお話しできた。それに明日一緒に図書室に…」
…パタン。と、開いていた本を閉じると。
「ふふっ、嬉しいなぁ」
嬉しすぎてついニヤニヤしちゃうのだった。
☆
「…やった!初めて神崎さんとおしゃべりできた!」
俺は数学のノートを手に握りながら教室を出ると、ルンルンでスキップした。
神崎未来さんとずっと前から話してみたくて。けど、話するきっかけがなくて。
いつもなんとなく彼女のことを目で追っていたら─いつのまにか彼女に恋してて。
ある日、神崎さんが放課後毎日のように教室でひとり読書していることを知って。
だから今日、わざと宿題の数学のノートを机に忘れていって、教室に取りに行った。
神崎さんに会うために。
神崎さんと話したくて。
そしてやっと今日、神崎さんとおしゃべりできたし、しかも明日、神崎さんと2人で図書室に行く約束までできた。
それにしても…
「おすすめの本を教えてくれてた時の神崎さん…めっちゃ可愛くて死にそうだったわ」
ニヤニヤしながら廊下をスキップする俺。
浮かれまくってる俺は、手に握られたノートが宿題の数学のノートじゃなくて、科学のノートということに気づき悲鳴を上げるのは、家に帰ってから寝る前になるのだった──────