プロローグ
━━━━これは、とある星夜の記憶。あたしの大切な記憶。
「ひっく……ひっく……」
森に囲まれた川辺で一人、幼い少女が座り込んでいた。また、キトンブルーの澄んだ瞳からは、大粒の涙が零れている。
そして、少女の背後の茂みから、彼女と同じ年頃の幼い少年が現れて、そっと声をかけた。
「ねぇ、またいじわるされたの? 」
「あたしがおかしいの……木には登れないし、魚はあんまり好きじゃない、しっぽだってみんなより太くて大きいし……」
「でもさ、村で一番あしが速いよ? すごいじゃん! 」
「それも、おかしいって…………みんなが……」
「………。」
それを聞くと幼い少年は、逡巡して黙った。しかし、それも一瞬のことで、再び少女に声をかけた。
「ねぇ、ぼくの秘密を教えてあげる」
そう言うと幼い少年は両手のひらを合わせ、空気を包むようにかるく握った。ちょうど団子を握る仕草に似ている。
幼い少年は目を瞑り、手の中に集中しているようだった。
そして、やがて……幼い少年の手の中からほんのりと光がもれだす。手の中で強弱を放ちながら、何かが光っているのがわかった。
「ほら、見て」
幼い少年は目を開けて言った。
また、手を開くと、中からキラキラと光の粒子があたりに広がった。
「きれいー! 星空みたい! 」
幼い少女も目を輝かせている。その瞳にはもう涙はなかった。
「これ、光魔法って言うんだよ」
「まほう? 」
「そう。大お爺様が教えてくれたんだけど、世界には水のないところで水を生み出したり、火のないとこで火をおこすことのできる人がいて、その力を魔法っていうんだって」
「すごーい! じゃあこれは光を作れる魔法ってこと? 」
「うん。でも、魔法はふつうぼくたちみたいな獣人種じゃ使えないんだって、なぜかぼくは使えるみたいけど…。だから、大お爺様にはこれを使っちゃいけないし、人前で見せてもいけないって言われたんだ。」
「え……」
幼い少女の表情が不意にくもる。少年に魔法を使わせてしまったこと、自分が見てしまったことへの罪悪感からだった。
「だからね。獣人種なのに魔法をを使えるぼくもおかしいんだよ。本当は、みんな何かがおかしいの。みんながみんな違うことが、当たり前なんだよ」
「……うん」
か弱い返事ではあったが、幼い少女の表情が少し明るくなっていた。幼い少年が、木に登れないことも魚が苦手なことも尻尾が太くて大きいことも気にしなくていいと言いたいことを理解したようだった。
「あとね! このことは絶対ふたりの秘密! じゃないと、ぼくが大お爺様に怒られちゃうから」
へらっと、やわらく、幼い少年が笑った。
「うん! 」
その笑顔につられて、幼い少女もニッコリ笑っていた。