21.魔剣士
「うるさいぞティゾーナ。今はビアンカと大事な話をしているんだ」
ミゲルはキッパリと魔剣に抗議する。魔力合戦で勝利したせいか、ミゲルはとても強気だ。
しかし魔剣は嬉しそうに言った。
「初恋か。初々しいのお。恋は良い。燃え盛る炎の如く美しい。――我らが主の門出に相応しい光景だ」
私とミゲルは顔を見合わせた。
「主? 門出?」
魔剣はパチッと火花を散らす。
「我ら、魔剣ティゾーナとコランダ。今、この瞬間より、ミゲル・ルベルぺを主と認める」
「!」
「これは亡き主、オクタビオ・コルテスの遺志でもある。拒否権はない」
「師匠の……」
「そうだ。オクタビオが、我らを手にしたその日から決めていたことだ。ありがたくその所有権を受け取れ」
「まってくれ。俺にそんな資格は」
「ある。まあ、拒否されても我らは勝手についていくしな。なあ、コランダよ」
話を振られたコランダは沈黙している。しかし微かに刀身が揺れた。それが肯定のサインであることは、なんとなく感覚で分かった。
私はじわじわと喜びが溢れる。
「ミゲル様すごいです! 宝剣に認められるなんてっ。これで立派な聖騎士様になれますね!」
「え……」
「あ、でもミゲル様は魔術も使えるし、魔剣の主になったのだから、聖騎士というより魔剣士様ですかね」
「魔剣士……?」
「だって魔術と剣どっちも使えるのって、この王国でミゲル様だけでしょ?」
「そう、かもしれないが……俺は魔術は、」
「何言ってるんですか! 魔術で遠距離攻撃、魔剣で中距離攻撃、剣で接近戦もできるなんて最強ですよ! 後方支援も出来るし攻防一体だし、あ! いっそ魔剣士を増やして隊長になったらどうですか?」
「突拍子もないことを言うな、君は」
「オクタビオ様も初代聖騎士長様だったのでしょ? 魔剣士の部隊が出来れば、魔族との戦いに革新を起こせますよ! これはミゲル様にしかできない事だわ!」
「俺にしか……」
ポカンと口を開けたままのミゲル。
あ~。しまったぞ。
またオタクトークが炸裂してしまった。
ゲームになかった魔剣という設定に燃えて、つい……。
「ご、ごめんなさい、また出しゃばってしまいました。でもミゲル様ならできると思ったんです」
「君は本当に面白いな」
「またそう言う。私はいたって真面目ですよ」
ミゲルは、自分の両手を見て頷いた。
「そうだな……。今はまだ想像がつかないが、挑戦してみるのもいいな」
ミゲルはティゾーナに向き直る。
「ティゾーナ。俺はビアンカを護れる力が欲しい。だから、俺の剣になってくれないか」
「ふ、もとよりそうだと言っておろうが」
「そうだったな。ありがとう」
「――それと聖女。そなたにも用がある」
こっちに来い、と言われたので、私はミゲルから離れてティゾーナのもとに行く。
魔剣からほとばしる魔力が神々しかったので、私は自然と祈りの体勢をとった。
「聖女ビアンカ。そなたに礼を言う。魔族の封印より我らを解き放ち、我に憑りついていた闇の力をも浄化した。その聖なる力に祝福を。炎の加護があらんことを」
魔剣は赤く小さな火を生み出した。
「これは……」
「種火だ。受け取れ」
種火と言われた灯火は、私の周りを一種した後に、組んでいた手の中にスッと入りこんで消えた。
チリリッと神経が熱くなる。
「聖女よ。それは火の魔術の種火。薪をくべて大きく育てよ。そうすればそなたも火の魔術が使えるようになる」
「ほ、本当ですかっ」
私は自分の身体とティゾーナを交互に見た。
「まあ、扱えるかどうかはそなた次第だ。あとでコランダの祝福も受けると良い。あれは風の魔剣だからな」
「は、はい!」
火の魔術と風の魔術。
ゲームでは使えなかった力を手に入れるなんて……!
やった!
生きて魔王を倒せる可能性が増えた。明日からは魔術の特訓もしなくては。
「良かったな。さすがはビアンカだ」
「ぬぁ⁉」
ミゲルが、急にハグしてくる。
我がことのように喜んでくれるのは嬉しいけど、は、恥ずかしいから!
「ちょ、ミゲル様、は、離してくださいっ」
「断る。それにさっきの返事をまだもらっていない」
「だからそれは――、」
「ミゲル・ルベルぺ殿。そこまでです。私の可愛い聖女にこれ以上触れないでいただきたい」
ずいっと、私とミゲルの間に入って来たのはラモン様だった。
「大司教様? どういうおつもりですか」
ミゲルは不満げに言った。
「どうもこうもありません。陛下に止められて今まで我慢していましたが、もう限界です。
ミゲル殿。ビアンカはアレイザ孤児院の大切な子であり、王国を救うただ一人の聖女なのです。あなたが易々と触れていい相手ではないのですよ。もちろん、さっきの婚約云々も無効ですので、悪しからず」
ひょいっとラモン様に抱えられる私。
ミゲルの低い声がする。
「ふーん。そうやってビアンカを独り占めしていたんですね」
「人聞きの悪い。匿っていたのです」
え。なに? なんだか、ラモン様とミゲルの間に火花が見えるような?
「なあ、その話、俺も混ぜてくれないか」
「「「⁉」」」
にょきっと現れたのはレグロ・キケ・セレイユ様。この国の国王陛下だ。
ゲーム攻略対象の一人。シリーズ史上一と言っていいほどの難攻不落キャラだとか。噂では、王道ルートを攻略した後でないと攻略できないって聞いたことがある。
私はこの設定がなんとなく苦手で、おかげでレグロも苦手キャラだ。
なんかあっさり「死刑」とか言われそうで怖いし。
レグロは私の手を取ってぶんぶんと握手をした。
「はじめまして、聖女ビアンカ。俺はレグロだ。この国の国王をやっている。早速だが、今後の君の扱いについて相談したい。可能な限り早く、大聖堂で洗礼の儀を執り行い、貴族や民衆に君の存在を公にする必要がある。しかしそれは同時に、君に身の危険が生じる。ついては君を、俺の側室に迎え入れ、この城で身の安全を保障しようと思うが、どうだ」
んなっ、
「「「側室⁉」」」
「安心しろ。ただの名目だ」
「「断固反対です‼」」
口を揃えたのはラモン様とミゲル。
国王レグロは首をかしげた。
「なぜだ。これが一番の安全策だろ?」
「ビアンカはアレイザ大聖堂で護りますので、陛下は黙っていて頂けますか」
「いいえ。ルベルペ家で、私の婚約者として迎え入れます」
「あの~、私は今のままで良いんですけど……」
「「「論外だ」」」
「ぇ~……」
そんなあっさり却下しなくても。
その後もワーワーギャーギャーと三人が議論していたけれど、なんだか面倒になって来たので、私は諦めて明日からの修行の事を考えることにした。
聖女の力と精霊魔術。
どっちも使いこなして魔王を倒す! と、やる気を漲らせた。
──確定、ミゲルルート発動。
【概要】
ルベルぺ公爵家の次男で、セレイユ王国一の聖騎士。
代々続く魔術師の家系であるが、幼いころに出会った聖騎士に憧れて剣を志す。
もともと魔術に興味はなく、むしろ嫌いであったが、十歳のときに起こった「あるの出来事」がきっかけで父親と魔術を拒絶し、その後は剣のみで戦うようになる。
容姿端麗であるため貴族の御令嬢に大変人気。ファンクラブがあるらしい。
趣味は異術研究。しかし相性が悪いためか、よく実験に失敗している。
また、一定の条件を満たすことで「真なる聖騎士」という「隠しルート」が解放され、レアアイテムが装備可能となる。
――「堕ちる聖女・公式ファンブック」より。
ミゲル編、完結です。
低くても構いませんので評価頂けると幸いです。。。
次編もよろしくお願い致します!