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14.その剣聖の、豪儀なる一生。

 初めて見たミゲルの泣きそうな顔に唖然とした私は、師匠にがぶり寄って問いただした。


「ビアンカ。あなたは剣聖オクタビオ・コルテスという人物をご存じですか」


 師匠はとても言いにくそうに、それでも丁寧に話してくれた。


「実は私の父でして。もとは平民でしたが、独学で剣を始め国家騎士になりました。それだけでも大変な偉業ですが、父は自分の剣がどれ程まで通用するか試したいあまり、魔族との戦地であるラベラン戦線へ単身乗り込んだのです。当時、魔族との戦闘は魔術師のみで迎撃をしていたので、魔力を持った貴族しかラベラン戦線に行くことはできませんでした。そこに魔力を持たない剣士が乗り込んだのです。正気の沙汰ではありません。……しかし父は生きて帰ってきました。自分の年齢と同じ数だけの魔族の首を持って凱旋したのです。三十二体の魔族の首です。それは騎士でも魔族を討てるという証明になり、聖騎士という組織ができるキッカケとなったのです。父は初代聖騎士長となり、数多くの聖騎士を育てました。六十三体目の魔族を倒した後、父は国王より男爵の爵位を授与されました。土地も家も与えられたのに、殆ど帰ることもなく戦地で戦い抜き六十八歳で剣を置きました。あれほど戦地で華々しく散って死ぬと豪語していた父でしたが、楽しみを見つけたと言ってあっさり引退したのです。その楽しみが、ミゲル様との出会いでした。五歳ですでに全ての魔術を会得していたミゲル様は、父と勝負しました。もちろんミゲル様は魔術で、父は剣で、です。とてつもない激闘でした。城のなかでも緑が一際美しかった庭園をひとつ、まる焦げにするほどの戦いで……年甲斐もなく、父が勝ちました。公爵家のご子息を足蹴にして勝ち誇る老人をみて、私は死刑を覚悟しました。しかしミゲル様は大層父を気に入られて、剣の弟子にしろとおっしゃったのです。

 事実、ミゲル様は素晴らしい才能をお持ちで、いつか父に勝る剣豪になるだろうと、私も父も、それは楽しみだったのです。しかし、その三カ月後に父が不祥事を起こし、国王の逆鱗に触れました。それは紛れもなく父の過失でした。処刑されても仕方のない……大きな罪です。その後、コルテス家は爵位を剥奪され、一家は離散しましたが、けしてミゲル様が原因ではないのです」


「師匠……、その罪とはなんだったのですか?」

「申し訳ありません。それはご勘弁を」


 悲痛な面持ちで言葉を切った師匠に、それ以上は聞けなかった。

 ミゲルが自分に呪いをかけてまで剣を持つことを拒んだ罪……。


「師匠、私、ミゲルの所に行ってきます!」

「城に? ビアンカ、一般人が入れるような所ではありませんよ」

「大丈夫です! 下を見ないように気をつければ静かに着地できますから!」

「は、ハイ?」


 私は孤児院の屋根に登り、天翼を顕現した。


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