見つかった
「じゃあ早速私達の場所がバレてない内に遠くまで行っちゃいましょう! そうですね…あっちの森とかよさそうです!」
そう決断するなり、有無を言わせず俺の手を引いて森の方へと駆け出していくアリア。
「ちょ、ちょっと待って、俺以外にも連れが居るんだが…」
「ジンさんの連れなんて知りません! そんなことよりここから離れちゃいましょう!」
俺の抗議も虚しく、俺は森の奥へと引きずり込まれていった。
「結構奥まで来ましたね…」
「ああ…」
村付近の森は鬱蒼としているが、魔物の生息数はかなり少ないので俺達子供でも安全だ。
タイムループの前からシルフィとの遊び場として何度も使わせて貰っている。
「さて、見つかっちゃう前に遊び倒しましょう! まずは鬼ごっこなんてどうですか?」
「勿論」
「じゃあどっちが鬼か、じゃんけんで決めましょう! 行きますよ!」
「じゃんけん…!」
「俺が鬼か…」
「きゃーっ!」
俺がじゃんけんに負けた瞬間に嬉しそうな悲鳴を上げながら森の中を爆走するアリア。
さて…少し魔法の練習がてら鬼ごっこに付き合うとしますか。
今回使用するのは身体強化。
影魔法を影付与や、それこそ影転に影化極めたら殆ど必要のない技能にはなるが。
仕組みとしては簡単で、魔力を体外に放出せず、自身の体の強化に使うだけ。
あるとないとではかなり違う技能だ。
これを使ってすぐに鬼ごっこを終わらせてやるか…。
身体強化を使用し、アリアの後ろを走り追いかける。
「ジンさん、私のスピードについてこれるとは素晴らしいですね!」
しかしアリアと俺の距離は一行に縮まらない。
何故だ? 身体強化を使えば子供の体でも大人以上に力が出る筈なのだが…。
ん…? 待て? アリアの体からは若干の魔力反応が…って。
アリアも身体強化を使っているのか? それもほぼ無意識の内に。
確かに体内で魔力が活性化しており、体の強化がされている。
子供の頃から魔法、又は魔力を扱える者は非常に少ない。しかしアリアは持ち前の才能だけと修行により魔力操作の技術を幼いながらにして会得しているのか。
だとするならば、彼女の言っていた修行、と言うものは確かに意味のある物だったのだろう。
こんな才能を見つけ、幼いながらに魔力操作を会得させる教会…なかなかやるな。
「さあどうしました!? 全然追いつけないみたいですね!」
数分程追いかけっこを続けているが、未だに距離が縮まる未来が見えない。
…少し不正するか。
「影付与」
魔法名を唱えると共に、俺の足元から影が伸び、足を影が完全に覆いつくす。
影付与。影魔法の中でもかなり簡単な部類に入るが、その使い方は無限大。
効能としては、物質を影で覆い、覆われた物質は非常に硬くなり、壊すのが困難になる、と言っただけだが、それ故に応用がかなり効く。
今回は足を影で硬化させ、近場の木を横に思い切り蹴りつけ、一気に距離を詰める。
「な…いつの間にそんな近くに…」
驚くアリアにもう少しで手が届きそうに――。
「…ジンくん、見ぃつけた」
俺の背後から、地獄から響いて来たかのような声がした。
恐る恐る後ろを振り向くと…にこやかな顔でこちらを見つけるシルフィが立っていた。
アリアもそれにつられて足を止め、シルフィの方を見る。
「ところで…そこの女の子は誰? かくれんぼの途中で鬼ごっこ? 私を仲間外れにして…?」
口元は満面の笑みを浮かべているが、明らかにその赤い目が笑っていないシルフィ。
完全に仲間外れにされたことにかなり怒っているぞこれ…!
「いや、そのこれはだな…そう、シルフィが来るのを待ってたんだ! シルフィと三人で遊びたくてだな」
「ふーん…? …じゃあそういうことにしてあげる」
「貴女がジンさんの言ってた連れ?」
アリアがシルフィにそう問いかける。
「連れって言うか…なんて言えばいいのかな?」
少し含みのある表情でこちらを見てくるシルフィ。
「いや連れだろ」
「…じゃあおままごとして遊ばない? 私がお母さんでジンくんがお父さん、貴女は犬ね!」
「い、犬!?」
「ほら、ジンくん、ご飯ですよ~…はい犬、お手!」
「ちょっと!? 私は犬じゃなくてアリアって名前が…」
「じゃあアリア犬! 三回回ってワン!」
「アリア犬!? ちょっと! 実は私エリシア教会の聖女候補なんですよ!? てか貴女も名乗ったらどうでしょうか!?」
「ちょっと! 犬が人間の言葉を喋っちゃダメでしょ! ちゃんとワンワンって言って!」
「そ、そんな…」
…聖女にこんな対応して大丈夫だろうか…。てかなんかシルフィアリアに当たり強くない? 気のせいか。
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