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最悪の未来

「ご、ごめんなさい…」

「ハァ…ジンがいなければどうなってたか分からないんだぞ? アリアの回復魔法だって何度も使える訳じゃないし…それに…」


 薄暗い森の中、俺たち勇者パーティーは依頼された魔物の討伐の為に探索をしていたのだが、道中でシルフィが魔物から奇襲を受けそうになってしまったのだ。

 危ういところで俺がなんとかしたからよかったが、俺がいなければ致命傷は免れなかっただろう。

 聖女のアリアが居るとは言え、回復魔法を何度も使えないというのは本当だ。

 その事で、勇者兼俺たちのリーダーであるアイルがシルフィに注意を促していたのだ。

 そんなことは今までに何度もあった。


「なあ、もういいんじゃないか? シルフィだって反省してるんだからさ」

「…いや、いくら君の幼馴染とはいえ、ジンは少しシルフィに対して甘すぎないか? 僕たちは勇者パーティーなんだ…」

「いや、次は気を付ければいいって…」

「その次、が今までに何回あった?」


 アイルが視線で俺に伝えてくる。

 実力不足。

 その四文字が頭を掠める。


「ちょっとアイルにジン? 早く付いてきてよ!」

「そうですよ。早く依頼を終わらせましょう?」

「あ、ああ、悪い」


 歩みを止めた俺とアイルに前の方から重騎士であるエレナが声を掛けてくる。

 このパーティー唯一の壁役だ。

 その声を聞いて、とぼとぼとシルフィがエレナとアリアの後を付いていく。


「…ジン、この依頼が終わったら、彼女に話を付けようと思う」

「な…!? お前…それって?」

「…彼女は実力不足だ。誰が見てもそう言うだろう」


 確かにそうだ。シルフィは魔法使いとしてかなりの強さを誇るが、俺たちと同じくらい強いかと言われれば答えはNOだ。

 …勿論勇者パーティーには目的がある。

 無論、魔王を倒すことだ。

 今も常識的に考えるとかなり高難易度の依頼を受けている訳だが、これに着いてこれないようなら実力不足、アイルはそう言いたいのだろう。


「でも…シルフィは勇者パーティーに必要とされるよう必死に努力して…」

「努力もクソもないっ…! このまま付いてくれば、彼女は間違いなく死ぬ。今までジン、君のような絶対的強者が彼女を守り切っていたからなんとかなっていたんだ。これから先、君でも苦戦するような戦いになった時に、君は彼女を守れるのかい? …彼女は自分の力だけで戦えるのかい?」

「それは…」


 始めは若干イラついたように声を荒げたアイル。

 しかし冷静さを取り戻した後半のアイルの言葉は俺に一つの判断を余儀なくさせた。














「シルフィ、今日を持って君を勇者パーティーから追放、とさせてもらう」

「…え…?」


 依頼も終わり場所は宿屋。

 アイルの口から放たれた言葉に、ぽつりと声を漏らしてしまうシルフィ。


「理由はわかってるだろう。言ってしまえば君は足手纏いなんだ。君が弱いとは言わないが、僕たちの戦いには着いてこれない」

「で、でも、私だってジンくんに着いていけるよう毎日特訓して――」

「でも、じゃない。僕たちのパーティーに君は不要なんだ」

「っ…」


 シルフィは一瞬だけ、表情を激しく歪めた後に小走りで宿屋を後にしていった。

 それを見て、俺は彼女を追いかけようと…。


「…行くな、とは言わないし、言えない」


 それを聞いて、俺は全速力でシルフィの後を追った。











「ま、待ってくれ…」

「…ジンくん?」


 俺の声に気づいたのか、少し目元を拭ってからシルフィはこちらに向き直った。


「シルフィ…村に居た時は楽しかったよな。毎日駆け回って、偶々あの竜を二人で倒しただけで俺たちは勇者パーティーなんかにスカウトされたんだよな」

「ううん、竜だってジンくん一人で倒したようなものだよ…」

「いや、そうじゃない。シルフィが居なかったら俺は死んでたさ」

「…ありがとう」


 少し頬を赤らめるシルフィ。


「礼なんて要らない、むしろ礼を言うのはこっちだ。だから、シルフィには俺たちが魔王を倒すまで死なないで、生きていて欲しい。そして世界から争いが無くなったら…」

「…でも、私はジンくんと一緒に冒険して、助け合って…隣に立ちたかった」


 どこか遠い目をしてそう語るシルフィ。


「いや、それは俺が代わりになんとかする。シルフィが居なくても自分でなんとか出来――」

「違う、違うの。気持ちは嬉しい。でも…ごめんね」


 そういうなり。シルフィは俺に背を向けて立ち去ってしまった。

 月明りが照らす夜道。

 白銀の髪が舞うその背中を、俺は再び追うことは出来なかった。












 夜中、馴染みのある、それでいてどこか異質な魔力を感知し目が覚めた。

 段々と異質な魔力は近づいて来て…。


「マズい!? 起きろお前達! 危な――」


 俺の叫び声がアイルたちを起こす前に、宿屋は跡形もなく消滅した。





「ガハッ…」


 辛うじて影化(えんか)を使い、完全に攻撃を回避することは出来なかったが致命傷は免れた。

 影化は体を全て魔力で構成された影に変え、如何なる攻撃も無効化するはずの最強回避技だったはずなんだが…今の攻撃の火力が桁違いすぎたようで、完全に影に変化した俺の体にダメージが入っている。

 これは今までの中で一番最悪の敵だ。

 

 恐らく宿屋が完全に消滅したところを見るに、アイルたちも只では済んでないだろう。

 生きているかすら怪しいレベルだ。

 しかしまあ大丈夫だろうという圧倒的希望的観測を持ちながら、攻撃の主の方に目を向ける。

 あの魔力の質に量…まさかとは思うが魔王か?

 という思いとは裏腹に。

 そこには…。


「シ、シルフィ…?」


 感情の無い目をこちらに向けるシルフィが居た。





 突然で、突拍子もない光景に動揺が止まらない。

 お世辞にも、シルフィがあそこまでの威力を持った魔法をアイルたちが気づくよりも早く練り上げ、攻撃するの実力はない筈だ。


「な…なんで…?」


 よくよく見ると、美しかった白銀の髪色は真っ黒に染まり、放たれる魔力は前のシルフィとは格が違う。

 ついさっきまでと比べて生気が微塵も感じられない光のない赤い瞳。


「…ふむ、この肉体はシルフィと言うのか…最高の媒体が簡単に手に入ったと思えば…貴様のおかげか。その点に関しては礼を言わざるを得ないな」

「媒体…? 何を言ってるんだ!? シルフィを返せ!」


 本能的に、目の前にいるのはシルフィではないと分かってしまう。


「…準備運動と行こうか」


 そう言うや否や、凄まじい勢いで魔力がシルフィの体に溜まっていく。

 これはマズい。

 急いでシルフィに攻撃を仕掛けようとするが、それよりも早くシルフィではない何かから魔力が放出される。

 シルフィが得意とする、白魔法を基とした柱の生成魔法が発動される。

 白魔法は聖女アリアの使う回復魔法、もとい聖魔法、そして勇者アイルが使用する光魔法と同格レベルに希少な魔法属性だ。

 しかし、生成された柱は前までのような純白の輝きを放ってはおらず、その殆どが黒色の絵具に塗りつぶされたかのような禍々しい色をしている。

 幾つもの柱が只俺一人を狙い飛来する。

 再び影化を使い、超速で向かってくる柱を躱す。

 が、どれだけの威力を誇っているのか、少し掠っただけで、完全に影に変わった筈の俺の体にバカにならないダメージが入ってくる。

 これは影化ばかりに頼っているとすぐに負ける…。

 なら…雲一つない月明りが強い今、距離を詰めて魔術師の苦手な近接戦に持ち込む…っ!


影転(えんてん)!」


 影転。自分の認知できる影の在る所ならばどこにでも即座に転移することが可能な魔法。

 今夜は月が明るく、マトモに影になるような場所はあまりない…が。


「…ほう」


 シルフィの体により生まれた影。

 ここなら至近距離。魔術師の最も苦手とする間合い。


影縫(影踏み)


 影を地面に縫い付ける(踏む)ことで発動する影魔法の中でも難易度の高い魔法。

 影を俺が踏んでいる間、問答無用で相手を動けなくする。

 が…。


「温い」


 魔法を封じることは出来ない。

 俺の周りに魔法陣が浮かび、そこから黒く禍々しい柱が生成される。

 しかし、俺の方が速い。

 影爪(えんそう)がシルフィに届くまで――。

 シルフィに届くまで?

 なんで俺がシルフィに手を掛けなくてはいけない?


「ガ…」


 気づいた時には、シルフィの付きだした手が俺の体を貫通していた。

 

 遅れて周りから生成された魔力の柱が俺の体をグチャグチャにする。

 瞬間、シルフィの目から涙が零れているのが見えた。




 ――そんな顔するなよ…。

 死んでも死にきれないじゃないか……。


 薄れゆく意識の中、体の中で熱い物がグルグルと回り始め、浮遊感と共に……。





 ――俺は目が覚めた。

2話は明日、3話ももしかしたら明日出せるかもしれません

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― 新着の感想 ―
[良い点] 解りやすくて読みやすい。その後の展開が隠されてていて楽しみです。 [一言] 応援してます。続々お願いします
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