9.最強のスキルで無双してしまう
愚かなことに、アイツはまだ勝機がある様子だ。
「はっ! 『神獣』がどうした! 俺たちだってただ平凡に過ごしてきたわけじゃないんだよ! おい、アレを解き放て」
そう言い、仲間が格子状の入れ物取り出す。そして鍵を解除しここに解き放つ。
「これは俺たちが捕まえた魔物だ。ダンジョンで死ねなかったのなら、ここで死んでしまえ!」
手のひらサイズだった魔物はみるみる肥大化していく。その姿は二本のツノが生え、鋭利な爪が現れる。二足で立つその魔物は、
「鬼の魔物か」
鬼は魔物の中でも上位のクラスに属する魔物だ。これはなかなか凶悪なものを持っていたな。
「ゴブリンがレベル5だとしたら、こいつはレベル80といったところか」
「人間が魔物を飼い慣らしておるじゃと!?」
「魔物を道具として利用する悪人は少なくない。神聖な『神獣』を従える者の反対で、邪悪な『魔物』を利用するクソ野郎ってわけだ」
それにしても、ここまで上位の魔物を使役しているとは驚いたな。まあ、相手になるかどうかだがな。
「はっ、お前たちもこれで終わりだ。おとなしく鬼に捕食されるんだな」
「こっちだってそんな気前よく負けてらんねぇだよ。アイツを焼き尽くせ。火焔龍!」
鬼と火焔龍は勢いよく互いに激突する。
グオオオオオォォォーッ!
両者の力は互角だが、その素早い火焔龍の攻撃は鬼に対してクリーンヒットしていく。
「なんでだ! なんでこっちが負けているんだ! 鬼は上位の魔物だぞ」
「そろそろ実力を見るんだな。初めからお前に勝機なんてないんだよ」
鬼はたしかに強いが、神の領域に達している神獣になど到底及ぶはずがないのだ。アイツの敗因は、そもそも俺と戦うなどというバカな考えをした時点で全てが終わっているんだ。
グギャーーーーーッ!
時間が進むにつれ、鬼の肉体は食いちぎられ、断末魔もあげることなく、絶命していった。
「お前たちの切り札は終わった。さっさと投降するんだな」
「いいや。まだ終わらない。たとえ神獣が強くても、それを従えているやつが強いとは限らない。ここにいる全員でかかっちまえば、いくら『英雄』でも勝てねぇってことをおしえてやるよッ!」
全く。くだらん話だ。唯一、褒めてやれるところもある。『英雄』は必ずしも喧嘩に勝てるわけでは無い。あくまで魔物に対して絶対の強さを誇る者への称号だ。魔物よりも姑息で卑怯で卑劣な人間が束となってかかってくれば負けてしまう可能性もあるだろう。
「お前たちはもう少し生存本能を大事にした方がいい。俺と戦うなど、――命がいくつあっても足んねぇーよ」
「かかれぇー!」「ここで殺してやる」「これで終わりだ!」
大勢を有利に、10人ほどがまとめて全方位から攻撃を仕掛ける。
多数に無勢、とはこのことだろう。まるで昔を思い出した。何もできなかったあの日を。あの人に救われ、生き延びたことを。力を手にし、ここまで上り詰めたことを。何もかもが、 走馬灯のように思い出す。誓ったのだ。この力を使ったこの世界を、王都をぶっ潰すと。
「アルス様!危ないっ!」
今までの力は俺自身に開花したスキルだ。神獣そのものが俺のスキルとなった言わば最強のスキル。そしてもうひとつ俺にあるスキル。それは『最強』から受け継がれたスキル。どんなものに対しても絶対を誇る無限の盾を。
なら、ここで使おうじゃないか。受け継がれたスキルを。
「――森羅万象・無限ノ灯火」
――ピキンッ!
俺が詠唱すると、俺の足元には半径3メートル魔法陣が展開されている。そして無法の冒険者たちは一切の身動きが取れなくなっていた。己の思考では体が動かないのだ。
「貴様何を!」
「俺のスキルだ。この魔法陣内に侵入するやつの思考と行動を一切遮断する。つまり頭で考えても体が反応しない。どう足掻いても動けない」
「なんだそのスキルは! 聞いたことがないぞ!」
「だろうな。似たスキルを持つ人間すらいないのに、これは全てを極めた者にしか使えない最上位の魔法だ。わかっただろ。お前たちが何人も束になってかかってきても、攻撃すら与えることのできない。この世界は弱肉強食だ。素直に負けを認めるってことも大事だと思うぞ」
「ッ……ありえない。人間にここまでの力があるなんて」
どこまで素直じゃないことか。アリシアとフレンダもこっちを見ているが反応がないということはまだ理解に達していないってことか。
「ここまでの力は人間にあるはずがないってのは正しい判断だ。だが、これがもし神の力だったら?」
「何が言いたい!」
やはり理解できないか。それもそうか。こんなヤツらに俺の力を測ることなどできないのだから。そうか。だったらもっと分かりやすくすればいいのか。
俺は再び詠唱を始める。本当は出すつもりはなったんだが。
「万物を制定せし、その深紅の滾りをもって灰燼に帰させよ。『不死鳥』!」
天翔するは霹靂と業火。全ての頂点に君臨し、混沌せし冥府を正す。
ここにいる誰もが息を呑む。それもそのはずだ。これはかの『英雄』アイアーンのスキル。決して消えることのないその炎は、神獣そのものだ。
「これが正体だ。驚いたか。神獣を2つも従えていることを。無理もない。本来、神獣との契約は、人間は一体の神獣としかできないからな。だが、俺のスキルそのものが神獣だったら納得できるだろう」
「なん……だと!?」
俺はあの時、アイアーンから貰ったスキルは『不死鳥』。そして、修行のなかで覚醒した本来のスキル。それが『火焔龍』。ひとつの体にふたつの神獣を宿す。それがこの俺の本当の正体だ。
「そもそも、こんな力を頼らなくても」
スンッ
一瞬にして俺は背後を取る。そして首元には魔剣が構えられている。
「お前たちなんて倒せるんだよ」
あまりに衝撃的だったのか、無言のまま気絶してしまった。少し脅しすぎたか。
「残りのヤツらはどうする? 俺はやり合っていいんだぜ」
当然、誰も戦闘するやつなどいなかった。命が危ないと、そう察したか。武器を捨て投降した。
これでようやく、ダンジョン攻略が終わったのだ。アルスたちは無傷で快勝し、幕は閉じた。
「まだスキルを隠してたんですね! やっぱり私のアルス様は最強ですっ!」
「まさか、お前さんがあんな力を持っておったとはな。感心したぞ! こんなことができるのはお前さんだけじゃ!」
「そう言ってもらえてなによりだ」
気付いたら俺は囲まれ、アリシアたちは笑顔で言った。やれやれ、とりあえず密売冒険者たちを縄で縛ったあと、これからどうするか話し合っていた。
「すっかり日が暮れてしまいましたね」
「無駄な相手をしていたからな。もうこんな時間か」
「そやつらはワシが街まで送り届けよう」
「そうしてもらえると助かる」
「その方たちはどうなるのでしょうか?」
立派な犯罪者だ。ここから近い王都に預かってもらうことになるが。
「処罰は受けるだろう。もうこんなことはして欲しくないがな」
このダンジョンでいろんなことが起きた。一番大きな出来事といえば、
「それと、改めてよろしくなフレンダ」
「何を今さら。ワシはここ出るときにすでに力を貸した。ならばもう仲間じゃろう」
「そうですね。私たちの『復讐パーティ』の新たな仲間です!」
「ん? なんじゃそのパーティは」
「話せば長い。それはともかく帰ろう。依頼主が待っているしな」
「はいっ!」
「ふんっ、まあよかろう。ワシはお主が行きたい場所へついて行くだけじゃ」
夕陽を背に、俺たちは帰路に着くのであった。
「おぉ、こんなに『癒しの薬草』が! あなたたちは私たちの救世主です。宜しければ、ずっとここにいてもらいたいほどです」
「いや、俺たちは明日にでもここを離れますよ。依頼は完了したんで報酬さえくれれば、ね」
街に戻り、アイツらが集めていた薬草の入った袋を渡した。これでこの街の雰囲気が戻ってくれるといいんだが。
俺はダンジョンでなにがあったか大まかに話した。密売冒険者のこと、ゴーレム討伐のことも。フレンダに関することは言わなかった。のちのち面倒になりそうだからだ。
「冒険者さん。この度は本当にありがとうございます」
とまあ、ここにいても感謝されまくって逆に居心地が悪かったので、宿に行くことにした。アリシアとフレンダは先に宿に行かせていた。遅くなるのも悪いしな。
「部屋はここか」
外観は古びていたが中は立派な廊下を抜け扉を開けると、
「なんでお前たちがいるんだよ」
「いいじゃないですか! 私たち、これから旅をする仲間ですし」
「あのな、男と女だぞ。それくらいわかるだろ」
「別に私は構いませんけど。ねぇフレンダさん?」
「ま、まあ、部屋が狭くなるが、これも親交を深めるためならば仕方なかろう。それに、一夜を共に過ごすと魔力高まると昔から言うしな」
どういう理屈だ。それに、高まるのは魔力じゃなくて違うなにかだ。
「ともかく俺は疲れてる。ここはお前たちが使ってくれ。おれはもうひとつの部屋を借りるから。いいな」
俺はそう言うと扉をバタンっと閉める。扉越しになにかブツブツ聞こえているが無視した。
窓から見える星空はとても綺麗だった。
俺はこれからやっていけるだろうかと、一人でいるとそんなことを考える時間が多くなっていた。だが、今の俺には優しくて頼りになるアリシアと、大魔女……大魔幼女がいるんだ。
たとえどんな困難があろうとやっていけるだろう。あの日誓ったことを。力を託されたあの日から。全ては復讐するために。だから俺は……いや、俺たちは進み続けるのだ。
――ドンッドンッ!
朝から騒がしい。誰かが俺の部屋をノックしているのか。まったく。朝から一体何の用だ。
寝起きで重たい体を起こし、扉を開けるとそこにいたのは、
「ディランッ!」
「おはようアルス。早速で悪いが、――お前は罪人として王都へ連行する。さっさとその手を縛らせてくれたまえ」
周りには多くの王都兵が宿屋を囲んでいた。いつの間にか、俺は罪人扱いとして指名手配されていた。
こうして、新たな仲間とともに、俺の復讐劇は始まるのだった。
「面白い!」
「続きが気になる!」
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