2.その英雄の名は……
「――王都は7年前に亡くなった『英雄』アイアーンを殺した罪とし、現場にいた少年を指名手配とする」
朝から非常に騒がしい。昔の事件を掘り出した王都。当然住民たちは慌て騒いでいた。何しろあの最強の冒険者アイアーンが死んでいたのだ。ただ俺は何も感情を抱かなかった。
俺もあのときからちょうど七年の月日が経過していた。王都は相変わらず多くの人で溢れかえっている。村とは大違いだ。俺はフードを深くかぶり、食事ができる店に立ち寄った。
「サンドウィッチ、一つ」
朝食を頼み受け取ると席に座り食べ始める。サンドウィッチはいつ食べても美味かった。俺は配っていたチラシを読む。
「朝から大変だよなぁ」
突然、後ろからやってきた男は、俺が見ていたチラシを勝手に取ると向かいの席に座った。どうやら冒険者のようだ。バッチの色は『ブロンズ』だった。
「人のものだぞ。それは盗みと同等だ」
「まぁ固いこと言うなよ。俺は冒険者だ。お前みたいなボロいフードとマントを着ているヤツには王都は似合わねえよ。なぁお前ら」
すると周りの客がいっせいに笑い始めた。そうだった、この王都は腐っている。唯一腐っていないのはこのサンドウィッチくらいか。
「返してくれ」
「おいおい、話聞いていなかったのか? いいか、世界は力で優劣が決まってる。お前はさっさと出ていきな」
全く。俺はこいつらを無視しても良かったが、店の人が困っていた。接客をしている女の子も少々怯えていた。仕方ない。ここは少しやるしかないな。
「なぜ王都はギルドに、そこに書いてる指名手配の捜索願い出さなかった分かるか?」
「何を言ってる。これは王都の仕事だ」
「違うな。冒険者でも『英雄』クラスの冒険者には捜索依頼がきているぞ」
「……何が言いたい?」
俺は残りのサンドウィッチを口に押し込み、立ち上がる。
「お前らみたいな雑魚に王都が依頼を出すはずがないってことだ」
「て、テメェ、何様のつもりだッ!」
バンッとテーブルを叩き、立ち上がる男の手にはナイフが握られていた。どうやら俺に対してのようだ。
「それに、なんでそのことを知ってやがるッ!」
至近距離で大声出すなよ。だから俺は一言だけ言ってやった。
「簡単だ。――俺が『英雄』の冒険者だからだ」
「なん……だと……っ!?」
俺は腰から剣を取り出す。これが証明になってくれるからだ。
「その剣まさか……『炎剣スカーレット』!」
その剣は紅い輝きを放っていた。『英雄』クラスになると有名な加治屋から個人の武器を作ってもらえる。その際、『英雄』の証明として武器に刻印が押されるのだ。
剣を見せられ驚いているが、まだ信じきっていないらしい。
「ふんっ、どうせレプリカだ。お前みたいなボロボロ装備が『英雄』のわけねえんだよ!」
動揺しておかしくなったのか、手に持っていたナイフを俺に向けて振りかざしてきた。実に馬鹿だ。これだから王都は嫌いなんだ。
ドンッ!
重たい音が鳴り響く。ナイフは俺には届かず、後に放った俺の拳が男の腹を直撃していた。
「ガハッ!」
「言っただろ。俺は英雄だって」
男はそのまま腹部を押え倒れ込む。大口叩いていた割にはあっけないな。
「他にやりたいやつはいるか?」
俺を嘲笑っていた周りの連中に聞いてみたが、驚いたのか無言で店を出ていった。
「やっぱ王都のやつは好きになれんな」
辺りを見回す。客はおらず接客していた女の子しかいなかった。すると、女の子は俺に近づき、
「あ、あの、ありがとうございますっ」
恥ずかしがりながらも俺に感謝を伝えたのだ。
「いいや、騒ぎを起こした俺が悪い。君がお礼を言う必要なんてないよ」
「いえ、私さっきの人たちに絡まれていたので……その、助かりました!」
「そうか。ならよかった」
俺は彼女の頭を撫でる。
「助けて欲しかったら叫べ。大事なことだ」
「は、はいっ!」
彼女の顔は赤らめながらも返事をする。
「そこのチンピラは後で王都に受け渡しておいてくれ」
そう告げると、俺は店を出ていく。
「……あ、あの、名前は!?」
そう言えばまだ言ってなかったか。俺は振り返らず止まり、フードを脱いだ。
「――アルス。覚えておく価値もない名前だ」
そしてまた歩き出す。
そう。俺はあの日から成長した。地獄のような修練を積み、今日、目指していた『英雄』になったのだ。全ては王都をぶっ潰すため。アルスは己の目標を果たすために雑多の中に消えていった。
指名手配のチラシの裏にはこう書かれてあった。
――【号外! 新たな『英雄』誕生!!『炎』を宿す新生!名はアルス】
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