10.追放処分〜①
王都。街とは違い、面積、人口といったあらゆるものが比べ物にならないほど大きい。そして、そこに住む王都の市民、特に貴族には良い印象は持たない。それもそのはずだ。この前も店で揉めてしまったのだから。だから王都は嫌いだ。こんなクソの集まりにいるだけで反吐が出る。
だが、俺にはもう一つ、王都が嫌いな理由がある。七年前、俺の故郷を襲った可能性、そしてアリシアが住んでいた村を襲った件。片方は推測だがアリシアの件は確実だ。なぜ村を襲うのか。動機は分からないが、王都を束ねる者、ルーカス王が関与しているのは明白だ。
俺は真相を暴くため、全てを失う代償としてスキルを手に入れ、これまで生きてきた。繰り返される地獄。それをなくすために。だからもう一度、王都へ足を運ばなければならない。
そして今、俺は王都にいる。俺の予想とは違った形で。
「偉大なる俺のパーティを抜けたんだ。そのくらいのズラが良く似合うぜ」
「うるせぇ。ほっとけ」
「犬がそう喚くな。せっかく手錠をしてやったんだ。もう少しその格好を眺めさせろよ」
王都の城内、謁見の間。周りには多くの王都兵が綺麗に整列している。そして俺は手を後ろに手錠をさせられ床に座らされていた。アリシアとフレンダは俺の後方で同じく手錠をさせられている。周りには兵が見張っているため、手出しはできない。
それと、俺はアリシアたちに「ここにくるまでに何も言うな」と忠告した。アリシアは村の生き残りだとバレたら何をされるか分からないからだ。
「ディラン。お前までそっち側だったとはな」
「おっと、勝手な憶測はよしてくれたまえ。君がなぜここに連れてこられているか、わかるだろ? 己の罪だ。受け入れたまえ」
見当はつく。おそらくアリシアの村を救ったときに何者かが見ていたのだろう。俺は王都兵を殺した。そのことだろうか。いや、違うとすれば……。
「ルーカス王は?」
「もうすぐ来るさ。君が死刑になるのを僕は楽しみにしてるさ」
無駄なイケメン顔に腹が立つ。ぶっ殺してやりたいくらいだ。
そして大きく扉が開かれる。現れたのはルーカス王だ。歳もだいぶいっており、シワシワの顔だがその目は鋭く、それは勝ち誇った目だった。ゆっくりとした足取りで玉座に着く。
「『英雄』アルス。お前がなぜここにいるか分かるか?」
「いいえ、俺は何もしてませんし、ここにこの状態でいることすら理解ができません」
「そうか。では、冒険者アルスの罪状を読み上げろ」
一人の兵が駆けつけ、紙に書かれてる文字を読み上げる。
「罪状、アルスは王都周辺、東の村にて、村人を殺害。及び放火し、村を崩壊させた罪に問われています」
「これを聞いて、なにか言いたいことはあるかねアルス」
そうか。こいつは俺を利用して村を焼き払ったことを全て俺の罪にしたいのか。だが、証拠がないはずだ。
「証拠がない以上、これを証明はできません」
これを聞いて、ディランが一歩前へ出る。
「証拠はある。お前を見たものがいる」
そこに現れたのは、
「私の名はシャルテ。ディラン様の勇者パーティで魔法使いをしています。私のスキル『魔力鑑定』によれば、現場でアルスの魔力痕跡がありました。これは有力な証拠であり、一連の事件が本当であれば死罪になるでしょう」
シャルテはディランが率いる勇者パーティの一人であり、元パーティメンバーである。露出した肌、豊満な体は数々の男を虜にしてきただろう。赤い立髪ロールが目立つクソビッチである。王都では有名な魔法使いであり、『土』属性の魔法使いでは右に出るものはいないと言われている。
「どうでしょうルーカス王。彼の犯行証明は言質できました。あとは制裁を下すのみです」
やはりこいつらはグルだ。俺をハメるためにお互いに手を組んだのだ。たとえ仲間ではなくても、利害が一致したのだろう。これだから王都は嫌いだ。何もかも自分通りの世界を作ろうとする。どんな手を使ってでも。
「証拠もあり、被告から発言がないため、死罪と……」
「――待ってください! 彼は決してそんなことはしません」
ルーカス王を遮るように立ち上がったのは、アリシアだった。まったくあれほどやめろと言ったのに。
「彼女は?」
「私の名はアリシア。アルス様のパーティの一人です。一緒にいるから分かりますが、アルス様は誰かを悲しませることは絶対にしません」
どこまで天然で正直ものなのかはしらないが、その瞳は真剣だった。シャルテは不満に思ったのか反発する。
「ふんっ、小娘は黙りなさい。私のスキルで彼の有罪は決定しているのよ」
「たしかにそうかもしれませんが、では逆にそれを証明できますか? アルス様がスキルを使用した痕跡があったと言いますが、それはただのデマカセではないのですか」
「あなた、誰に口を聞いているのか分かるのかしら。私のスキルは一級品よ。アルスのパーティなんて聞いたことないし、あなたの口など誰も取り扱ってくれないわ。勇者パーティなのだから皆が信じるに決まっているわ」
「……」
周囲がざわめく。アリシアは嘲笑される。場の空気に支配されたのか、アリシアから発せられる言葉はなかった。
「あらどうしたのかしら? もう黙っちゃうの。子どもは早くおうちに帰りなさい」
あー、これだからムカつくんだこいつらは。煽られているのが俺じゃなくても、それがパーティメンバーだったら許せない。ディランはその憎たらしい顔をしながら、
「アルス。覚悟を決めるんだな」
「冒険者アルスよ。これは決定事項だ。明日、処刑台にて公開処刑と……」
「――お父様。これは何事ですか?」
「エリザベス! どうしてここに」
颯爽と俺たちの目の前に現れたのは、ルーカス王の娘であり、時期女王のエリザベスだった。
「騒がしく来てみれば、これはどういうことですか?」
「エリザベス。お前が関わる件ではない。下がりなさい」
父の威厳なのか、高圧的の態度をとる。だがエリザベスは終始笑顔だ。
「そうですか。でもそう言われると思ったので、こちらで事前に調べておきました。『英雄』アルス殿」
ふんっ、どこまで用意周到なのか。これはルーカス王を超える存在になるだろう。
髪をなびかせ、髪をクルクルしながらビッチであるシャルテが反抗する。
「エリザベス様。これはお遊びではないんですよ。勝手な行動は慎んでいただきたく……」
「――でしたら、あなたも夜中にいろんな男に出会うなど、パーティメンバーに迷惑をかける行動は慎みくださいね」
「なっ!」
ぷっ、おっと、唐突の爆弾発言に思わず笑ってしまった。シャルテはバレたことが気に触ったのか、目を見開く。
「て、適当なことを言わないでもらいたいわ。私はディランしか信用してませんから」
「そうですか。ではこれ以上口出しは御遠慮頂きたく思います。最終的な判断は我々王都が決めますので」
そう言うとシャルテは黙り込む。いい眺めだ。
エリザベスは俺の方へ向き直る。
「アルス殿。あなたは今回の犯行を行ってないと言いますが、間違いはありませんか?」
「ああ。俺はやっていない」
俺は事実だけを言う。当然、俺にも証拠というものはない。だがそれはどちらも同じだ。
「アルス殿、そしてシャルテさん双方の意見はどちらも証明はできません。ですので間を取り、執行猶予ではどうでしょうか?」
新たな意見に周囲は困惑していた。本来ならば、俺が死刑となる予定だったからか。大きく予定がズレたな。俺としてはありがたい。こちらから何もせずにこの場を抜けれるのなら。ルーカス王は娘の発言に、
「しかしエリザベス。これはすでに決定事項であり、変えられんことじゃ」
「私にも判断を下す権利があると思います。それに改めて見れば証拠不十分ですし」
「それは、そうじゃが……」
「では、判決として、アルス殿は執行猶予。シャルテさんには魔力鑑定の結果を明白にできる準備をする、ということでよろしいですね」
一瞬にして、場を支配したエリザベスにより、一応俺の無罪が証明されたのだ。あとでアリシアにはお礼を言わないとな。
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