光合成で最速レベル上げ〜ステータスは低いけどレベルでなんとかする〜
―イーシッド迷宮・第二十三層―
「リュー、お前まだレベルが上がらないのか?」
「すまん、あと少しだと思うから手伝ってくれ」
「いつになったら次の階層に行けるのかしら?」
「あんまり攻めるな」
俺の名前はリュー、そしてこのパーティの名前は光の戦士たち。リーダーのジン、マリア、ライン、そして俺の4人パーティだ。
レベルにこだわっているのは、この迷宮が特殊条件付迷宮であり、4層毎に設定されているレベルに達しないまま次の階層に行こうとすると、強制的に入り口に戻されてしまう。
因みに24層の条件はレベル20であり、今の俺のレベルは19だ。
「そっち行ったぞ」
「了解!」
ザクッ、ドタン
「よしっ、倒した。」
「レベルアップしたか?」
「確認してみる。ステータスオープン!」
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リュー・剣士・Lv.20
体力 120/200
魔力 160/200
力 200
敏捷 200
防御 200
器用さ 200
賢さ 200
・スキル
―ユニークスキル・光合成
―アクティブスキル・剣術Ⅱ・筋力強化Ⅰ
―耐性
・なし
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相変わらず酷いステータスだ。普通このレベルまで行くと平均ステータスが500~800になるはずなのだ。リーダーのジンなんかは同レベルの頃、平均ステータスが1000近くあっただとか。とはいえ、俺以外のメンバーはみんなレベル30を超えている。つまり俺はステータスが酷い上、レベルアップが信じられないほど遅いのだ。
「やっとレベルアップしたぞ!次の階層に行こうか」
「……。」
返事がなかったのでみんなの方を見るとやや俯き気味で、言いづらそうな顔をしている。
「リュー、今日でウチのパーティを抜けてくれ」
「え……?」
今聞こえてはいけない言葉が聞こえた気がする
「ジン、今なんて?」
「もう一度言う。このパーティを抜けてくれ」
そうか、遂にこのときが来たのか。いつかそうなる気がしていたが、俺は現実から目を背けていた。
「理由を聞いてもいいか?」
「ああ」
長くなるのでまとめると、俺はやはり探索者には向いてないようだ。遅かれ早かれいづれ大怪我をしてしまう、危ないからといった理由だった。
「俺たちは、お前のためを思って言ったことだ、わかってくれ」
「ああ、わかっている」
「お前は探索者をやめてもできる仕事は山ほどあるだろう。お前には今まで探索者としてやってきた経験がある。探索者と比べたら低いかもしれないが、一般人と比べたら力も器用さも段違いだ。今のお前ならどんな仕事にも就けるだろう」
「気遣ってくれてありがとう」
今日はそのまま迷宮から帰還し、そこで3人と別れた。明日またパーティ脱退の手続きするらしい。
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翌日、俺はいつもの探索者ギルドにやってきた。つい、いつもの癖で依頼の紙が貼ってある掲示板を眺めてしまった。
「まだ諦めきれていないのか」
改めて自分自身の置かれている状況を顧みていると、見知った顔が見えてきた。
「すまん、待たせたか」
「いや、いつもの癖で掲示板眺めてたからそれほど待っていないよ」
「それなら良かった。あとこれ、退職金」
ジンが金貨3枚と銀貨50枚が入った袋を投げてきた。
因みに退職金はそのパーティでの活動年数で決められており、俺はちょうど3年なので金貨3枚渡してもらわなければならない。おそらく、銀貨50枚は、餞別として入れてくれたのだろう。
「ありがとう」
「パーティ脱退の手続きはやっといたからもうここでしばらくのお別れだ」
「パーティ光の戦士たちの活躍を期待してるよ」
「そっちこそ元気でな」
そう言って意外とあっさりとした別れだった。
「さて、これからどうするか」
あいつらが言ってたように探索者をやめるべきなのだろう。でも、俺は世界一の探索者になることが夢だった。だからどうしても諦めることができない。
「旅でもするか」
そうして、俺は世界一の探索者になるために、旅をすることをこのとき決意したのだった。
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「とはいえ、これからどこに行こうか」
今いるのはタージ王国の辺境地であるマッカだ。この街は、近くにあるイーシッド迷宮のおかげで有名な探索者やそれ目当てに集まった商人が多いために成長してきた。
近くには、鍛冶の街ウィーンや、貴族の街ガランド、農業の街ナーザなどがある。
「どこ行くか決める前に、世話になったイーシッド迷宮があるイーシッド大森林でも散策するか」
そうつぶやいて早速向かうことにした。
「何度来てもこの森はでけぇな」
実はこの森はあまり手入れされていないのだ。理由はあまりにも広大な土地であるということと、この森にはエルフや、木の妖精などの珍しい種族が住んでいるためである。勿論イーシッド迷宮への道は整備されていたが、それでも森であることには変わりないため、視界が悪くなりやすく最近では盗賊が蔓延るようになり始めたのが問題視されている。
「いつもと違う所でも行ってみるか」
このあと自分の人生を大きく変えることがあるとはかんがえてもいなかった。
しばらく歩いていると急に開けた場所に出た。
「こんな場所があったのか」
その開けた場所の真ん中には途轍もない大きさの気がそびえ立っていた。それはまるでそこに神でも君臨したかのような神々しさを感じる。
「うわぁ、こんなでかい木があったら御神木として祀られていてもおかしくないだろ」
しかしどうしてあんなに大きく育ったのか検討もつかない。それに半径100メートル近く周りには、草の一本も生えていない。
「どういう仕組みだ?たしか、植物は光合成とかいうので成長するんだったか」
ん?待てよ、俺のユニークスキルって確か光合成だったよな?てことは俺人間だから発動しないのでは?
「決めつけるのはまだはやいか。それに光合成には他にも条件があるのかもしれない」
前読んだ本にこんなことが書かれていた。『光合成には太陽光と水とCO2が必要』
「てことは、人間でもできるかもしれないな」
というわけで持ってきていた水筒を飲み干してみたが、特に変化はなかった。
「改めて考えてみたら普段から水飲んでるけどスキル発動してなかったわ。スキルをこえにだしてみるか」
ユニークスキルは持っている人も少ない上、発動条件が特殊なことが多いためユニークスキルを持っていたとしても一生のうちに一度も使えたことがないことも珍しくはない。そんな発動条件の中でもスキルを声に出すという条件がかなり多いのである。
補足だが、俺が所属していたパーティの光の戦士たちのリーダーのジンは、剣聖というユニークスキルを持っている。もともとパーティを組んだのも幼馴染な上二人ともユニークスキル持ちだったためであった。
「とりあえずやってみるか。スキル〈光合成〉!!」
何も変化がないと思ったらだんだん眠たくなってきてついには眠ってしまった。
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「んっ、うんん。あれ今何時だ?」
周りを見渡すと日が沈みだしていた。
「それにしても体が軽いな。寝たおかげかな?」
もしかしてスキルのおかげかもと考えてステータスを見てみることにした。
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リュー・剣士・Lv.50
体力 500/500
魔力 500/500
力 500
敏捷 500
防御 500
器用さ 500
賢さ 500
・スキル
―ユニークスキル・光合成(180)
―アクティブスキル・剣術Ⅴ・筋力強化Ⅲ(腕力)・土属性魔法Ⅰ
―パッシブスキル・自然治癒Ⅰ
―耐性
・物理耐性Ⅰ・水属性吸収
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「なんかレベルがめちゃくちゃ上がってる!?それにスキルまで増えてるし!でもやっぱりステータスはめちゃくちゃ低いな」
おそらくジンのやつよりも大幅にレベルが高いが、ステータスはまったくかてていないだろう。それだけ俺のステータスは低いのだ。
「今まで恐ろしいくらいレベルが上がるのが遅かったのにこんなに一瞬でレベルが上がっちゃうと今までの努力は何だったんだって思ってしまいそうだ」
それもそうだ。今までだったら一ヶ月で1レベル上がればいい方だったのにもかかわらず、たった3時間ほど眠っただけで30レベルもあがったのだ。
「そういえば光合成の隣に書いてある数字は一体何なんだ?」
光合成の隣に(180)と書いてある。スキル発動前には書いていなかったはずだ。スキルの発動時間がだいたい3時間だったからそのことを表しているのではないだろうか。しかしそんなことを書かれるスキルなど聞いたこともない。
ゴブッッ!ゴギギガッ!
「んんん!?くそっ!考え事をしていたらゴブリンに囲まれてやがった」
しかしおかしい。今は真夜中のはずだ。そう思ったが自分の体が少しだけ光っていることに気づいた。
「この光がゴブリンたちをおびき寄せてしまった」
俺の周りにはゴブリン5匹が囲っている。ゴブリン1匹だったら初心者探索者でもひとりで倒せるレベルだが、5匹以上となると連携を取り始めるため、銅級探索者3人以上かまたは銀級探索者じゃないと倒すのが難しいだろう。おそらくジンならば銅級の今でも倒せるのではないだろうか。勿論俺には悔しいが難しいだろう。
そんなことを考えていると、3匹のゴブリンが飛びかかってきた。
「あっぶなっ!こいつらまじで連携とりやがる」
そういえばレベルが上がったからなのか、ゴブリンの動きがゆっくりに見える。
「これなら行けそうだ!スキル腕力強化!!」
俺はさっきゴブリンが飛びついてきたときに落とした棍棒を拾い上げ思いっきり振りかぶった。
「おおおおおらああああ!!!」
ゴキッッ!
「うわっ!すごい音しなかった?俺めちゃくちゃ強くなってるな。それにしても最初は5匹いたはずだ。どこ行きやがった」
ゴブブブッ!ガギガガガ!ドンっっ!
「クソッッ!一撃食らっちまった!これだから連携する魔物は嫌いなんだ」
高所から思いっきり殴られたのにも関わらず少ししかダメージを受けていないのは、上がったステータスと、物理耐性のお陰だろう。
「見つけちまえばもう勝ったも同然だろ。くたばれええ!!スキル筋力強化!!」
ドンッ!!
鈍い音がしたあとゴブリンたちは崩れるように倒れた。
「ふぅ、危なかった、こともなかった」
それにしても今までとは段違いに強くなっていた。それも、想像してるよりも遥かに。
「もしかしてこのスキル光合成はめちゃくちゃ強いのでは?」
そんなことを思ったりしつつ、疲れたので今日見つけた大木の下で眠ることにした。
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夜が明けて、思ったりよりも寒かったので薪を集めて暖をたいた。なぜだか喉も乾いたので水筒の水を飲もうとしたが、昨日飲み干したのを思い出して絶望しつつ、昨日見つけた池に向かった。そこで水を汲もうとしたとき、
「なんだ……これ……」
その池の表面には髪が緑色に変化している自分が映っていた。緑色に変化しているといっても、毛先の方だけだが、それでもそこは昨日まで黒色だったはずだ。
「そういえば、光合成には葉緑体なる緑色の物質が必要とも書いてあったな」
おそらく、その物質が俺にはなかったから髪の毛を強制的にその葉緑体に変化させたのだろう。
「使えば使うほど体が緑になるなんて嫌だぞ。そんなのまるでゴブリンにでもなっちまったみたいじゃねえか」
それでも俺は世界一の探索者になりたいから何度かまた使うことになるだろう。
「色々ありすぎて疲れたし、街に戻って宿でも取るか」
そうつぶやいて街に戻っていった。
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街に戻ってきてすぐ、市場に行って夕食を買ったあと、いつも使ってる宿屋にやってきた。
「女将さん、2泊お願い」
「はいよ、銀貨1枚だよ」
「これでいいか」
「毎度どうも、こことここ以外なら好きなところでいいよ」
「天井に窓がある部屋はあるか?」
「一番端の部屋になるけどいいかい?」
「それでお願いします」
そう言って一番端の部屋をとった。理由は勿論スキル光合成についての実験をするためだ。前回は、森の中のため眠ってしまったため、魔物に襲われてしまう恐れがあったが運良く襲われなかったが、 次はそうとも限らない。念の為に、天井に窓があれば太陽の光も入るとふんで、その部屋を選んだ。
「うん、いい感じに光が入ってきているな」
早速実験をするためにさっき市場に行くときに汲んできた水を一気に飲んで部屋のベッドに寝転がった。
「よっし、やるか。スキル光合成!!」
スキル名を叫んでみたが何も起こりそうにない。その後も窓を開けてみたり、もっと多くの水を飲んでみたり、目をつぶってみたり、何度もスキル名を叫んでみたりしたが特に変化はなかった。
「なんでだ?あの森でやったときと条件はかわらないはずだが?」
もしかしたらクールタイムがあるのかもしれない。ユニークスキルである時飛ばしなんかは一度使うと使った時間の10倍の時間、使用できなくなるらしい。スキル光合成もかなり強力なスキルのため、それだけ長い時間クールタイムが必要なのかもしれない。
「これに関しては今すぐ確かめられないから久しぶりにゆっくり街でも散策するか。いや、待てよ。俺もかなり強くなったしソロで迷宮でも行ってみるか?」
思い立ったが吉日だ。そう考えることにして、軽く準備したら宿を出た。
―イーシッド迷宮・第一層―
「それにしてもここに一人で来るなんて久しぶりだな」
俺は昔、ジンたちとパーティを組む2年前、一度一人でやってきたことがある。その時俺は、両親が俺のことについて喧嘩していたのを目撃してしまって、その時の俺はなんで喧嘩してるかも知らずに、
「けんかをしているおとうさまとおかあさまなんてだいっきらい」
そう言って家を出てイーシッド迷宮まで走っていった。その時はまだあまり体力がなかったのにも関わらず、大人が走っても疲れるような距離を無意識に走ったいた事に未だ驚きが隠せない。
「うわぁ、ここが迷宮かぁ」
この時はもちろん一度も迷宮に行ったことがなかったが、お父さんとお母さんに話をいっぱい聞いていたので知っていた。でも、危ないからと迷宮には近づかないように言われていた。この時の俺は様子がおかしかった。どこでもいいから隠れたいと思って気づいたら迷宮に吸い寄せられるように入っていた。そしてそこで事件が起こった。
「ここはあぶない!皆さん避難してください!」
「モンスターパレードが始まりました!!」
そんな声がしたがバレちゃいけないと思って隠れていたため逃げることができなかった。因みにモンスターパレードとは、まれに発生する大量のモンスターが一斉に移動を開始することを指す。未だにその原因はわかっていない。
「見つかるかと思ったけど、みんないなくなってくれた」
もちろんこの時の俺はこれから何が起こるかなど知る由もなかった。草むらに隠れていた俺は遠くから途轍もなく大きな音がすることに気づいた。
ゴゴゴゴゴゴゴ……
音のする方を見るとものすごいスピードでこちらに近づいてくる何かが目に入った。流石にこれには当時の俺にもヤバいとわかったらしく、急いで走り出したが、もちろん子供の足でそれから逃げ切ることは叶わなかった。
「嘘だっ!死にたくない!だれか!だれか助けて!!!」
その時だった。
ドンッッ!!
「大丈夫か、小僧!」
「う、うん」
そこに現れたのは、世界一の探索者であるレック・ヒルマーだった。それは、両親から何度も聞かされた話にも出て来る上に、俺の憧れでもあった。
「逃げるから俺に掴まっていろ」
「は、はい」
この時に俺は世界一の探索者になると決意したのだった。
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「懐かしいな。あのときのレック・ヒルマーさん本っ当にカッコよかったなぁ」
そんなことより、俺は早く力を試したくてウズウズしている。流石に一層じゃ敵が弱すぎるので、前回行こうとしてやめた層である第二十4層まで向かった。
「道中も前までだったら、苦戦していたけど、ほとんど苦戦することなくこれてしまったな」
ほとんどというのも、俺の主な攻撃手段は物理攻撃のため、物理耐性を持っているモンスターには苦戦してしまったということだ。とはいえ、そんなモンスターは、スライム種くらいなのでほぼ苦戦することなく来れたのだ。
「ここが24層か、なにか変わると思ったが、特に変化はなかったみたいだな。それじゃあ早速攻略を始めますか」
モンスターを探すために周囲を走り回っていると、早速ゴブリンアーチャーとゴブリンソルジャーが現れた。
ゴブッッ!ゴブッッ!
「俺はもうゴブリン2匹くらいには負けねぇ」
俺は既にゴブリン5匹相手にほぼ無傷で勝利した実績がある。もちろん相手はただのゴブリンではないのだが、それでも二匹ならば連携を取らないので、ステータスを上回ってる俺からすれば雑魚も同然だ。
「オラァ!くたばれぇ!」 ゴンッ!!
ゴブぅぅぅ
「やはり、この階層じゃまだまだ余裕だな」
やはりこのレベルになると、ソロでも十分やっていけそうだな。とりあえず、もう少しここで狩ってから上の階層に行こうか。
その後も、ゴブリンアーチャーやゴブリンソルジャー、ゴブリンメイジなどを狩っていった。
「そろそろ上の階層に行くか」
とりあえず三十二層まで行こうか。確か三十二層からは、出てくるモンスターが大きく変わるはずだ。三十一層まではゴブリン系のモンスターが多くなっているが、その階層からはオーク系のモンスターが多くなる。初めての敵とも戦いたいと思っていた。
移動する途中、何度か敵と遭遇することもあったが特に苦戦することなく、あっという間に三十二層にたどり着いた。
「オーク系との戦闘は初めてだからはじめは慎重に行こう」
グオオオオオ!
「早速現れやがったな」
オーク系は足が遅いが、パワーが桁違いに強い上、知能がある。何より、その硬さはそこらへんの上位モンスターでも敵わないレベルなんだとか。それに、足が遅いとは言っても、ゴブリン系よりも数段早く、あくまでもそのレベル帯では足が遅いというだけなのである。
ブンッッ!!
「わああ!?棍棒からする音じゃないだろおい」
確かに早いことは確認したが、それでもまだ余裕があることがわかったので、相手の攻撃だけに気をつけて、こっちも攻撃していこう。
「スキル筋力強化!!俺の速さについてこれるかな?」
俺は剣を握って素早く振り抜くと思っていたよりもあっさり首が落ちていった。硬いと言われているが故に拍子抜けである。これも恐らくスキルレベルがアップした剣術スキルのおかげなんだと思う。
「しかしとんでもないパワーだったな。あんな攻撃喰らえば今の俺でもひとたまりもなかっただろう」
それでもまだ余裕があったのでしばらくここで狩でもしようか。
「あれ、リューじゃないか」
「ジンこそこんなところで会うなんてな。相変わらず強いなお前たちは。もうここまでたどり着いたのか」
「それはこちらのセリフだ。一人で来たなんて言わないだろうな。仲間はどこだ?」
「いや、俺一人で来たぞ。パーティ脱退のあとスキルが覚醒して強くなったから力を試しに来たんだ」
ジンたちは、信じられないといった形相でこちらを見ている。それはそうだ。ついこの間までとてつもなく弱くて足を引っ張っていた奴が、ソロで同じ階層まで登ってきているのだから。
「そういやその髪の毛どうしたんだ?」
「ああ、これか。スキルの副作用(?)的なもんだ」
「お前の強さが見てみたいから少し一緒に狩りをしないか?」
「いいぞ」
そうして俺たちは一緒に狩りをすることになった。一緒に狩りをしていく中で、やはりジンは強いなと思った。話によると俺よりもレベルが10ほど低いにもかかわらず、剣術のみで相手のオークを圧倒していた。
「リューお前、本当に強くなったんだな」
「ああ、でもお前にはまだまだ敵わないみたいだ」
「それはどうも。そういえばレベルはいくつなんだ?」
「そういやいってなかったか。今のレベルは65だ」
「どうやってそんなに早くレベルを上げたんだ?前までならば1レベル上げるだけでも、とんでもない時間がかかったのに」
「それがスキルの効果だ。日中寝ている間大幅に成長するっていうね」
「それはとんでもないな。でもお前はステータスが低いからレベル百になっても同じレベル帯の階層に言ってもかてないのでは?」
「それはわからないがスキル発動時間に応じて成長するからもしかしたら世界最強のレック・ヒルマーさんの最高レベルであるレベル100を越えられるかもしれないがな」
「それは流石に強すぎないか?」
「それもそうだな。じゃあ続きと行きますか」
「おう」
俺たちはその後も狩り続け、ここ一帯のオークは全滅してしまった。
「そろそろ帰るか」
「そうするか。にしても随分狩ってしまったな」
「お前が成長したのが嬉しくてつい夢中になってしまった」
「お前にそんな一面があるとはな」
「俺をなんだと思ってるんだ?」
「堅物で結果重視の剣聖様?」
「俺だって幼馴染が強くなったら喜ぶに決まってるだろうが」
「あ、ありがとう」
そのまま外に出るともうすでに暗くなっていた。
「そんなに強くなったんだ。どうだ、戻ってくる気はないか?」
「すまん、戻りたいのは山々なんだが俺は既に修行の旅に出ると決意してしまった。もうそれを変えるつもりはない」
「そういうところは相変わらず変わらないんだな」
「というわけでまたしばらくのお別れだ。」
「とはいえ、お前とはまたどこか出会える気がするよ。その時はどれほど強くなってるか試したいもんだね」
「そっちこそ、今はまだ勝てないけど次あったときはボッコボコにしてやるよ」
「じゃあな」
「ああ、またな」
そう言ってそこで別れ、昨日取った宿へ戻ることにした。
「今日は、本当に楽しかったなあ。もしかしたら会えるかもしれないと思っていたけど本当に会えるとは思わなかった。それに、強さも相変わらずだし、成長スピードもめちゃくちゃ早いな」
これは本格的にスキル光合成を使いこなさないといよいよ追い付かなくなってしまいそうだな。
「そうと決まれば、明日はとことんスキルに関する実験をするぞ!」
そんなことを考えつつ、俺はベッドに吸い込まれていくのだった。
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「ん、朝か。早速準備して森へ行こう」
朝食を食べて、水や武器、キャンプ道具を持って森に向かう。なぜ森に行くことにしたかというと、やはりスキル発動の条件を確かめるためだ。スキルを唯一発動できた森は実験にはもってこいだろう。それに人に見られるのも抵抗がある。俺が寝ている間に髪の毛が緑色になっていくところを見られるのは少しばかり恥ずかしい。
「よし着いた。とりあえず寝てもいいようにここらへんを整地していくか」
今回やってきたのは、前回来たときに見つけた巨大な木があったところだ。周りに邪魔な木や草がないし、近くに池もあるのでここにすることにした。そこに簡易テントを張って薪を集めておく。寝ている間は作業できない上に、恐らく日が沈むと強制的に目を覚ますと思うので夜に体が冷えないように薪だけは集めておいた。
「そろそろ準備はいいか。それじゃあ色々やってみるか」
とりあえず前回と同じ条件にするためにたくさん持ってきた水を一部飲んだ。そして次にスキル名を叫ぶ。
「スキル光合成!!」
前回発動したときと同様に眠気が襲ってきたのでそれに身を任せて眠った。
「んんん~、終わったのか」
早速ステータスを見てみようとする。
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リュー・剣士・Lv.150
体力 1650/1650(150)
魔力 1650/1650(150)
力 1650(150)
敏捷 1650(150)
防御 1650(150)
器用さ 1650(150)
賢さ 1650(150)
・スキル
―ユニークスキル・光合成(820)
―アクティブスキル・剣術Ⅹ→剣豪Ⅰ・筋力強化Ⅷ(腕力・脚力)・土属性魔法Ⅴ・火属性魔法Ⅱ・光属性魔法Ⅲ・治癒魔法Ⅲ
―パッシブスキル・自然治癒Ⅴ→不死
―耐性
・物理耐性Ⅳ・魔法耐性Ⅱ・光属性吸収・水属性吸収・土属性吸収・火属性耐性Ⅰ・睡眠耐性Ⅲ
──────────────────────────
「なんだこれ!?こんなステータス見たことも聞いたこともないぞ!!」
それはそうだ。世界最強と言われているレック・ヒルマーでさえ、公表されてはいないとはいえレベル100で、平均ステータスが4000ほどと言われている。それにレベル100から上がらなくなってしまったから、探索者業界から引退したとも言われているのだ。そんなレベル100という壁をやすやすと越えてしまったということになってしまう。もちろん俺の低いステータスじゃ、レベル100を越えたにもかかわらず、上位探索者ほどしかない。到底届く気がしない。
「ていうか不死って何だよ!!俺遂に死ななくなってしまったのか!?」
実験のために死ぬというのも流石に怖いので考えないことにした。そういや前には書かれていなかったステータスの横に書いてあるカッコは何なんだ?カッコに書かれている数字をステータスから引くと、いつもどおりの法則でステータスが上がったことになるから、ボーナスでステータスが増えているのだろうか?
「もしかしてだけど、この剣豪っていうスキルの影響か?」
そういえば昔聞いたことがある。スキル剣術を極めたものはそのスキルが進化して剣豪になる。そしてその剣豪っていうスキルには、ステータスをすべて一割上昇させるとんでも効果もあるだとか。
「あの話本当だったのか。だとしたらこのスキル本当にすごすぎないか?」
でも改めて考えると俺のステータスは低いからそこまで効果が出ていないのではないか?だって普通剣術を極めるに至った人がステータスが低いとはとてもではないが考えられない。どうも宝の持ち腐れのようにしか思えない。
「そんなことよりも発動条件がいまいちわからなかったな。とりあえず今日は寝て、明日起きたらクールタイムの実験をかねてすぐに発動してみよう」
そう言ってさっき手に入れた火属性魔法を使って暖を取ってから寝ることにした。
──────────────────────────
「よしっ、いつもより寝起きがいいな。もしかして、睡眠耐性のおかげか?」
スッキリするために近くの池に行き、ついでに自分の姿も確認することにした。
「ついには髪の毛全体が緑色になってしまったか」
他の箇所には特に問題がなかったので少しだけ安心した。次はそうとは限らないので、髪の毛がすべて終わってしまってたので他のところの色が変わるかもと心配でもあった。
「よしっ!さっぱりしたし早速やるか。スキル光合成!!」
そういえば水を飲むのを忘れてたことを思い出したが、何とスキルが発動してしまった。睡眠耐性Ⅲを持っているにも関わらず眠ってしまうとは思わなかった。そしてまた眠気に身を任せた。
「もう夕暮れか、このスキル使うと時間の流れが早すぎるな。それになんか明らかに髪の毛が伸びたな」
まあ、緑色になっていない部分がなかったから無理やり髪の毛を伸ばしたのだろう。とりあえずステータスをみるか。
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リュー・剣士・Lv.250
体力 3000/3000(500)
魔力 3000/3000(500)
力 3000(500)
敏捷 3000(500)
防御 3000(500)
器用さ 3000(500)
賢さ 3000(500)
・スキル
―ユニークスキル・光合成(1420)
―アクティブスキル・剣豪Ⅱ・筋力強化Ⅹ(腕力・脚力)→龍化Ⅰ・土属性魔法Ⅶ・火属性魔法Ⅳ・水属性魔法Ⅱ・光属性魔法Ⅵ・治癒魔法Ⅴ・探知魔法Ⅲ・鑑定・看破Ⅰ
―パッシブスキル・不死+不老→不老不死
―耐性
・物理耐性Ⅹ→物理無効・魔法耐性Ⅳ・光属性吸収・水属性吸収・土属性吸収・火属性耐性Ⅲ・睡眠耐性Ⅴ
──────────────────────────
「相変わらずとんでもないな。いよいよ人間やめてしまったのでは?」
前までの不死だけでもとんでもないのについには歳すらもとらなくなってしまった。それに加え、物理耐性まではきいたことがあったが、遂に無効になってしまった。正直、俺を殺せるものはもうこの世には存在していないのでは?
「ここまで来たら本当に世界一の探索者になれるのではないかって思わざるを得ないな」
後のことはまた明日考えることにして今日は寝ることにした。
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昨日同様に自分の姿を確認しに行くと、やはり髪の毛がかなり伸びていて、少しだけ肌が黒くなっていることに気づいた。ほんの少しだったため気のせいかもしれない。
昨日今日のようなことをこのあと5日間続けた結果、ステータスがこんなことになった。
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リュー・剣士・Lv.750
体力 15000/15000(7500)
魔力 15000/15000(7500)
力 15000(7500)
敏捷 15000(7500)
防御 15000(7500)
器用さ 15000(7500)
賢さ 15000(7500)
・スキル
―ユニークスキル・光合成(4420)
―アクティブスキル・剣豪Ⅹ・龍化Ⅹ・土属性魔法Ⅹ・火属性魔法Ⅹ・水属性魔法Ⅹ・光属性魔法Ⅹ・治癒魔法Ⅹ・探知魔法Ⅹ・鑑定・看破Ⅴ
―パッシブスキル・不老不死・不食・不眠・不労
―耐性
・物理無効・魔法耐性Ⅹ→魔法無効・光属性吸収+水属性吸収+土属性吸収+火属性耐性Ⅹ→火属性吸収→《全属性吸収》・状態異常無効
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これを見れば一目瞭然だが、俺は世界最強になった。しかし、俺は大きなものを失ってしまった。それは努力することの大切さだ。
俺はこのスキルが、自分を植物に変えているとは思いもせず世界最強になるためにと、何も考えずに使い続けた。そのうえ、このスキルに魅了されてしまったため、まるで自分がスキルを使っているようで、ただスキルに使われていたことになど当然気づく余地もない。
次使えば本当にただのそこらへんにある木と変わりない姿になってしまう。しかし今の俺には止めることはできない。もう完全にスキル《光合成》に魅了されてしまってる。
髪の毛が緑になっていっていたのは実は、二次的なものに過ぎず、体内から着々と人間から植物への変化は始まっていたのだ。
途中、肌が黒くなってきていると気づいていたが、結局気のせいだと思ってしまった。そのときには既に体の殆どを植物に変えられてしまっているとも気づかずに。
遂に最後のスキル発動が始まるようだ。
「す……き……る……光合成」