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魔法使いの世界を旅する一年  作者: Zezilia Hastler
第4章 鉄道旅行
39/72

18日目 スヴィルア鉄道

15:00


 

 広々とした駅のホームには、大勢の人々がいた。

 ぼくのように小さなトランクだけを持っている人や、舞雪ちゃんのように手ぶらな人など、みんな身軽な格好をしていた。


 ホームには、軽食や民芸品を取り扱う、簡素な屋台などもあった。

 ぼくはピロシキとコーヒーを買った。

 舞雪ちゃんはハンバーガーと緑茶。

 ジェロームくんには干し魚を買ってあげた。

 干し魚からは、公園で寝泊まりする人のような香りがしてきたので、電車が来る前に食べるようにお願いしておいた。


 ぼくは腕時計を見た。

 電車の発車時刻は三十分前だったのだけれど、それはぼくの勘違いかもしれない。

 そう思って乗車券を取り出して時間を確認してみたが、どうやら、勘違いしていたのはぼくだけではなく、乗車券の方も同じようだった。

 

「ーー電車なんて、遅れるもんやで」舞雪ちゃんは、すぐそばに浮いている緑茶のカップを取り、ズズ……、と、啜った。


「毎回こんくらい遅れるの?」ぼくはピロシキをかじった。このピロシキには鶏肉の挽肉が使われていた。


「日本に慣れすぎやね。スペインやロシアもこんなもんや」


「……箒の方が速い」ふと、視線を感じてそちらを見てみれば、ジェロームくんにかじられている干し魚だった。


「まだ箒なんか乗ってるん?」


 ぼく達魔法族にとって、空を飛ぶのに、箒は補助輪のようなものだった。

 

 魔法の扱いに慣れてしまえば、箒無しで空を飛ぶことが出来るし、そっちの方が速い。


 箒に乗って空を飛ぶのは、十歳には卒業しているのが普通だった。


 ただ、ぼくの場合は……、「だって……、そっちの方が可愛いし」言った途端に、顔が真っ赤になった。


 舞雪ちゃんは、楽しそうな声をあげて笑った。「空ちゃんのがかわええやんけ」


 ぼくは、むっ、として見せた。

 恥ずかしいけど、趣味なんだからしょうがない。

 ぼくは、黙ってピロシキを食べ、コーヒーを飲んだ。


 その時、ホームにアナウンスが鳴り響いた。


『お待たせしましたぁ〜、ホームに列車がまいりまぁ〜す、黄色い線のぉ〜、内側までぇ〜、下がって、お待ちくださぁ〜い』


「こっちはもう三十分も待ってんねんはよ来いや」舞雪ちゃんは言った。


 ジェロームくんは、まだ干し魚を食べていた。

 

「ジェロームくん、電車来るよ」


『まだ残ってる』


「捨ててくるね」


『トランクに入れておいてくれ。部屋で食べるから』


「だめだよ。部屋に匂いがついたら別料金請求されちゃうかも」


『ったく』ジェロームくんは、獲物を丸呑みする蛇のように、口を、グワァっ! と大きく開けて、干し魚の残りを飲み込んだ。


「今のどうやったの?」ジェロームくんとは二週間近い付き合いになる。口からヘアドライヤーのような冷風を出すのは知っていたが、こんな化け物みたいな一面を見たのは初めてだった。


『魔法だ』ジェロームくんは口元を舐め、前足を舐めた。


 ホームに、音もなく列車が滑り込んできた。

 その大きな車体が、風を揺らすこともなかったため、まるで、突然そこに現れたかのような錯覚にとらわれた。

 

 列車は、3階建てだった。

 大きな車輪の中では、猫くらいの大きさのハムスターが走っていた。

 車輪はクルクル回っていたが、車体が前に進むことはなかったので、ハムスター達はただ走っているだけのようだった。

 ハムスターの中には、座り込んで口をもぐもぐさせている子や、ハアハアと息を切らせて俯いている子などがいた。

 可愛いかった。

 

 乗車口が開き、そこから、車掌の格好をした女性が降りてきた。


「ーーこんにちはー。車掌のヴェンデルガルトでーす。乗車券を拝見いたしまーす」


 眠そうな目をした女の子だった。

 魔法族は、思春期の到来と共に外見の成長が止まるため、年齢は読みにくい。

 けれど、ぼくには、彼女がまだ若い魔女だということがわかった。

 根拠は、その前身から醸し出される雰囲気だけという、漠然とした感覚だけなのだけれど、それでも、彼女は間違いなく十代だった。

 その雰囲気ときたら、「わたしバイトっすから」と言った感じがありありと見て取れた。


 黄金色の瞳。

 ぼくと同じ、生命の魔素を持っている。


 腰には一本の長剣。

 それは、ぼくをはじめとした乗客が粗相をしたら頭をコツンと叩くためだろう。


 女の子は、身長が174cm。

 撫で肩の、ほっそりとしたスタイル。

 帽子からは、金色の髪がチラチラと顔を覗かせていた。


 女の子は、身長156cmのぼくを見下ろした。「もしもし?」


「あ、すみません」ぼくは、ロシア語で謝り、彼女に乗車券を渡した。

 

 彼女は、イラついたように眉をひそめていた。

 自分たちが三十分遅れるのは良くても、ぼくの反応が三秒遅れるのには我慢ならないということらしい。

 彼女は、手に持った鉄の道具で、乗車券に穴を開けると、それをぼくに返した。「どうもー、お部屋は144号室ですねー、お茶とお菓子のご用意がありますのでお寛ぎをー。はい、次の人ー」

 舞雪ちゃんは、ヴェンデルガルトさんに乗車券を渡した。

 

 ヴェンデルガルトさんは、舞雪ちゃんの乗車券を見て、眉をひそめた。「……同じ部屋ですね」


 ぼくは、ヴェンデルガルトさんを見上げた。「ええ、それが?」


 ヴェンデルガルトさんは、ぼくを見下ろして、舞雪ちゃんを見上げて、そして、ほっぺを赤くした。「な、なんでもないです……」


 ぼくは眉をひそめた。

 彼女が何を考えているのかわからない。


 精神の魔法使いである舞雪ちゃんは、ニヤニヤしていた。

 彼女には、ヴェンデルガルトさんが考えていることがわかるようだ。「せやで」


 ヴェンデルガルトさんは、顔から湯気を立ち上らせて、そそくさと、次の乗客の下へ向かった。


 ぼくは首を傾げた。


 舞雪ちゃんはぼくの肩を抱き寄せた。「さ、空ちゃん。お部屋で百合百合しちゃおっ」と、彼女は日本語で言った。


  ぼくの顔が急速に熱くなって爆発した。


 ぼくは、ヴェンデルガルトさんを睨んだ。 


 真っ赤な顔の彼女は、モジモジした様子で、チラチラとこちらを伺いながら、乗車券に穴を開けていた。


「く、腐ってやがる……」


 舞雪ちゃんは、楽しそうに笑いながら、ぼくを電車にエスコートした。


 

ーーー



 三階建ての列車に入ると、そこは通路になっていた。

 細い階段、細い通路。

 足元はレッドカーペット。

 壁ではランプが光っていたり、車内の案内が貼られていたりする。

 一階はショッピングエリア。

 イラストを見てみると、物資を積んだ倉庫などもあるようだった。

 二階は客室。

 三階は、談話室や展望台、レストランなどがあるようだった。

 ショッピングエリアを見てみたかったが、ショッピングエリアにはたくさんの人がいたので、まずは寝室に向かうことにした。

 マホガニーの手すりに触れながら階段を上がり、通路に出て、客室を探す。

 細い通路の両サイドには扉が並んでいた。

 扉には、ナンバープレート。

 客室だ。

 スヴィルア鉄道は、全長1440m。

 120mの車輌が12輌並ぶ編成。

 スタンダードタイプでは、一つの車輌に36の客室がある。

 つまり、432人以上の乗客とともに、これから2週間の列車の旅をすることになるわけだ。

 最近の旅行を通じて、人と話すことにはあまり抵抗がなくなったが、人が多いところはやはり苦手だった。

 可能な限り引きこもることにしようか。

 それか、人が少なくなる時間帯を探り、車内の観光を楽しむことにしよう。

 待てよ。

 どうやって探れば良い?

 ぼくは、ジェロームくんを見た。

 ジェロームくんは、車内をキョロキョロしていた。


「ジェロームくん」


『なんだ?』


「どうかした?」


『なんでもない。綺麗な車内だと思ってな』


「乗るのは初めて?」


 ジェロームくんは鼻を鳴らした。『初めてかって? 俺は猫だぞ? 猫が乗車賃を稼げるわけないだろ』


「そうだよね」


『だから魔女と友達になって乗せてもらったことがある』


 ぼくは笑った。

 このナンパ猫は、今も昔もやることが同じらしい。

 

『当時は病院みたいにベッドが並んでいるだけだった。カーテンも無しさ。それと比べれば、これはリッチすぎる』


「車輌タイプが違うんだよ。これはスタンダードタイプっていうみたい」


『ふーん』


 ぼくは、扉の前で止まった。

 扉には144と書かれたプレートがくっついている。


 舞雪ちゃんは、ナンバープレートを見て、乗車券を見た。「この部屋みたいやね」

「だね」


 ぼくたちは、ドアを開けた。

 室内はそれなりに広かった。

 寝室は、ぼくが3人は横になっても余裕がありそうだ。

 大きな窓にはカーテンがかかっている。

 そこからは十分な光が入り込んでくる。

 足元にはブラウンのカーペット。

 ベッドは壁に収納されているとのことだ。

 家具はなかったが、基本的に魔法で生み出すことが出来るので、あまり困ることもない。

 もしも人間などがこの電車に乗ったら困るだろうが、このAWには、魔法族しかいない。

 魔力の弱い半魔でも、家具や調度品を生み出すことは出来る。

 魔法族の世界にある、魔法族向けの部屋だった。

 

 ドア一枚を隔てた場所には、ユニットバスがあった。

 トイレと洗面台、曇り加工のプラスチックで作られたシャワーケース。

 バスタブがないけれど、シャワーを浴びれるだけ良かった。


 他には、クローゼットだけ。


 それだけの、シンプルな部屋だ。


「ジェロームくん、あとで車内を散歩したりする?」ぼくは言った。


『あぁ、その予定だ』ジェロームくんはあくびをした。『わかるよ。その間にイチャイチャするんだろ。こっちは大人だぞ。いちいち言わなくても察するさ。大丈夫だよ、ジュースとかお菓子を持って様子見に行ったりなんかしないさ』

 

 ぼくは笑った。「そうじゃなくて、色々見て周りたいんだけど、人が多いの嫌でさ、人が少なくなる時間とか教えて欲しい」


『わかった。じゃあ、早速行ってくるわ』


「ありがと」


 ジェロームくんは、レッドカーペットの通路をひゅっ! と、駆けて行った。


 ドアを閉め、部屋を見れば、舞雪ちゃんが、耳から白いモヤをつまみ出していた。


 モヤは、徐々に家具やらぬいぐるみやらを形作り、色付いていった。


 客室の中は、あっという間に舞雪ちゃんの部屋になってしまった。


「黄色が好きなんだね」

「オレンジもあるで」

 

 舞雪ちゃんは、オレンジ色のボディに緑色の首飾りの付いた怪獣のぬいぐるみをハグして、飛び上がり、ソファに着地した。


少しでも楽しんで頂けましたら、評価やブックマークをお願いします!(*´∀`*)


この物語はフィクションです。実在する如何なる人物、団体、出来事と本作品は関係ありません。物語内では未成年が飲酒喫煙をしてますが、彼らは人間ではなく魔法族です。本作品には未成年者の飲酒喫煙を推奨する意図はありません。自分の心と体を大事にしましょう:)

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