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七駅奇譚  作者: MUMU
6/7

六駅目 言葉を聞けば

言葉を聞けば






「だからね、確かめてみようと思うの」


その駅には噂があった。

Sさんという女性から聞いた話だ。そこは無人駅であり、深夜の最終列車が過ぎると誰もいなくなる。そんな駅でホームのベンチで寝込んでいると、ベンチのすぐそばに黒いスーツのような服を着た男が立っていて。


……てくれ……てくれ


と、ごく小さな声でぶつぶつと呟くというのだ。


Sさんは激しい恐怖を覚え、目も指もひきつったままだったが、咄嗟の出来事が起きる。


遠雷だ。

深夜に起きた通り雨が遠雷を響かせ、閃光の中でSさんは汗だくになって跳ね起きた。すると霊も消えていて、Sさんは心臓をぎゅっと掴むような姿勢のまま駅から脱出し、命からがらという心持ちで家まで帰りついたのだとか。


その駅は私の家の最寄りであり、高校に上がってからは通学でも利用していた。最終電車に乗ったことはないが、直前で適当な駅に行ってから戻ってくればいい。


不気味な話ではあるが、~~てくれ、という部分が気にかかる。霊は何かを求めているのだろうか。

やめて欲しいことや、して欲しいことがあるなら、叶えてあげたいとも思う。


友人は心配して止めたが、私が昔から言い出したら聞かないこと、オカルトに熱心だったことなどを知っていたので、最後には折れてくれた。


「気を付けてね」

「大丈夫、霊なんてみんな寂しいんだから、お水でも供えて祈ってあげるべきなのよ」


そう考え、私は最終電車で駅に降り立つと、勇気を出してホームの端のベンチにそっと上半身だけ横たえる。春先の風は生ぬるく、やがて眠気も襲う。

どのぐらい経ったのか、私はまどろみが急にしびれに変わり、金縛りに襲われたことを知る。そしてやはり傍らに気配を感じた。


……てくれ……てくれ


額に汗をかいている。恐怖に心がくじけそうになる。しかし私は強く眼を凝らして霊を見、その言葉を聞こうとした。霊は黒いスーツのような服を着ていて。

そして私は、霊が何を言いたかったのか理解した。


同時に、自分がなんて軽率だったのか。

霊に同情したことの浅はかさを理解した。


私は恐怖のあまり、目を閉じることもできず、引きつったままの舌を震わせるのみだった。


なぜならその霊は、両腕が失われていたから。



……くれ、……て、くれ、……て、くれ……





(終)

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