四駅目 夜に来るもの
夜に来るもの
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あるとき山道を歩いていたのですが、藪の中で方向を見失って散々迷ったことがありました。ようやく道を見つけたときはもう真っ暗になっていまして、私は暗い道をしばらく歩き、そしてバス停を見つけたのです。
金属製の表示板は長い歳月に黒ずみ、時刻表は錆が浮いてぼろぼろになっています。木造の駅舎は掘っ立て小屋も同然でした。
周りは田んぼが広がるばかりで、まばらな街灯からの光はとても弱々しいものでした。通行人もまるで通らず、私は心細い気分でした。
私はこんな時間、こんな寂れたバス停にバスが来るのだろうかと思い、時刻表を確認しました。
そこには確かに1時間に2・3本ほどバスの来る時間が書かれていましたが、
その数字はすべて、上から大きな文字を書かれることで塗りつぶされているのです。赤インキで殴り書きしたような文字でした。
18 こない こない こない こない
19 こない こない こない
表示はこのような具合でした。
これはイタズラなのか、それともバス会社の人が書いたものか判断が付かず、私はさらに下を読みます。
20 こない こない こない
21 こない こない
22 こない あたまあたま こない
私はその文字を見たとき、なんだか逼迫したもの を感じたのです。
あたまあたま、とは何を指すのかわかりませんが、その奇妙な響きは、そうとしか表現できないものを無理やりそう書いた、という印象があったのです。
私は腕時計を確認します。
時計は22:30を指していました。
私はハッとなって駅舎から出て、左右の道に目を凝らします。
片方から、何やらひたひたとこちらに歩いてくるシルエットがありました。
それは遠いために点のようで、白っぽい影にしか見えませんでした、
しかし私はそれを見た瞬間、狂ったような速さでそこから走り去ったのです。
その人影には頭が、二つあったのですから……。
(終)