二駅目 口付け
口付け
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とても冷え込む冬の夜に、あるローカル線に乗っていたときの話です。
私は残業ですっかり遅くなってしまい、最終電車は田園風景の中をゆっくりと走っています。
外は吹雪でした。駅に止まると、さっと開いたドアから綿毛のような雪が吹き込みます。鋭い冷気に私はコートの襟を合わせ、身を縮めてロングシートに腰を沈めました。
あまりの寒さに、私は早くドアが閉まらないかと願っていました。
客がまだ乗ってくるのか……そう思いつつ首を左右に振ると、三つあるドアの端の方から、誰かが乗り込んでくるのを感じました。
男女の二人組のようです。男性は酔ってでもいるのか体に力が入っておらず、女性が支えつつロングシートに座らせました。とても背の高い女性でした。
そして電車は走り出します。
揺らめく車体、ごく短い瞬間だけ明滅する電灯。私は疲れと寒気から、手足を縮め、体を丸めるように座っていました。
そして何とはなしに二人組の方に視線を送ると、女性のほうが男の頭を抱えこみ、熱い口づけを交わしているではないですか。
こんな真夜中までデートだったのか、そう思うと寒さに震える自分との対比でやりきれない気になります。邪魔をしてはいけないと思い、立ち上がって隣の車両へ行きました。
そして適当なシートに座り、じっと寒さに耐えて固まっていると、数分後にふいに電車が止まりました。
風雪の激しくなったために一時停止、そのようなアナウンスが流れます。さほど雪に慣れていない土地だったので、そのようなこともあるのでしょう。
私は仕方なく、止まった車両の中で立ち上がり、何となく広告などを読みます。
ふと、何かに気づいて脇を見れば隣の車両が見えました。
シートに男が寝そべっています。
私ははてと首を捻りました。女の方は何処へ行ったのでしょう。まだ駅には止まっておらず、隣の車両は最後尾なのです。どこへも行けるはずがありません。
私は隣へ行きました。やはり誰もいません。車両はしんと冷えていて、足元から冷気が上がってくるかのようです。
私は寝そべっている男が心配になり、もし、どこで降りられますか、と聞こうとして気付きました。その男は。
舌を抜き取られて、死んでいたのです。
(終)