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2.雨の日の災難

 昼休み、教室内の自分の席で昼食を取っていた俺の視界には祝四葉の姿が映っていた。というのも雨の日に彼女が泥まみれで教室に現れたときからさらに彼女のことが気になってしまっていたのだ。それはもう友人である孝太が苦笑いする程には……。


「お前流石に見すぎじゃないか? なんかストーカーみたいだぞ」

「そんなことはないだろ」


 正直そんなことはあるのだが、口に出して認めたら負けな気がした。だが彼女は雨の日なら必ず、雨の日でなくても時々は何らかの理由でジャージを着ているのだ。気にならない方がおかしい。


「それにしても謎だよな。入学式からもう二週間だって言うのにまだ祝さんの制服姿をちゃんと見てないんだぜ」

「いや、一昨日とかは制服だった」

「悪いが俺はお前みたいにずっと祝さんのことを見てないんだよ。そんなに気になるんだったらいっそのこと話しかけてみればいいだろ?」

「それは遠慮しておく」


 孝太に話しかけるように言われるも彼女に対してはどうにも行動出来ずにいた。それはなんとなく話しかけにくいオーラがあるというのもあるが、話しかけたら私に構わないでとでも言われそうで、それで自分が傷つきたくないというのが一番の理由だった。要するにただ自分がヘタレなだけなのだが、流石にこんなことを孝太には言えない。だが彼は何かを勘違いしたようで周りを確認すると耳元に口を近づけて小さく呟いた。


「まぁ俺も分かるぜ。話しかけるのはちょっとな、なんか前髪で表情見えなくて不気味だし、呪われそうだからな」


 そう言う孝太は本当にそう思っているようで更に小さい声で『もしかしてこれ祝さんに聞かれてたりしてないよな』と怯えていた。確かに現時点でのクラス内の彼女の評価は孝太が思っているように不気味なクラスメイトだとされているのは事実。未だ彼女が誰とも会話をしないということと、ホラー映画で出ていてもおかしくないと思ってしまうほどの見た目のことを考えれば周りからそういう評価をされるのは半ば必然的なことだった。だが個人的には彼女がそう評価されることは少しだけ悲しかった。だってそうだろう、何もしていないのにただ普通じゃないからという理由だけで不気味だというレッテルを貼られる。流石に不憫すぎる。


「でも本人はもしかしたら面白い人かもしれないだろ?」


 同情からだろうか、ここにはいない彼女に対してフォローを入れれば孝太が不思議そうな顔でこちらを見てきた。


「なんだよ、そう思ってるんだったらなんで話しかけないんだよ。何か別に理由があるのか?」

「いや……っともうすぐ昼休みが終わりだな。早く自分の席に戻った方がいいんじゃないか? 次は確か古文だろ?」

「うわっ! 古文かよ。あの先生に俺何故か目つけられてるんだよな。じゃあ凛、俺は戻るわ」


 なんとなく返答に困ったので誤魔化せば孝太は慌てて自分の席に戻る。それを見届けた後は再び祝四葉へと視線を向けた。


◆◆◆


 次の日、目が覚めてふと自室の窓から外を見ると雨が降っていた。それを見た後は部屋を出て身支度をし、学校に行く準備を整える。今日は晴れると天気予報では言っていたのだが、ここまで大きく外すともう逆に珍しいと感心することしか出来なかった。


 それはともかく朝の準備を全て終えた後はすぐに家を出た。登校するにしてはまだ少し早い時間なのだが、同じ学校の人があまりいない通学路というのは中々に快適でどうしても朝早く家を出てしまうのだ。だが今日に限ってはそうではなかった。そう思ったのは家を出た瞬間、車でも通ったのだろうか家の目の前にある道路から泥水が迫っていたからだった。


「……あっ」


 突然降りかかった災いに最早抗うことなど出来ず、全てを諦めて情けない声を出しながら泥水を一身に受ける。それからすぐに訪れた水の冷たさに身震いするのも一瞬、汚れた顔を手の甲で拭っていると聞き慣れない鈴を転がしたような綺麗な声が聞こえてきた。


「……大丈夫ですか?」


 声を辿って顔を上げると、そこにはこちらよりも泥水で汚れた祝四葉がいた。まさかの展開に驚いていると彼女は続けて謝罪をする。


「本当にすみません。私がタイミング良く家の前を通ってしまったばっかりに、一体どうお詫びして良いのか……」


 そんなおろおろとする彼女に怒りを覚えることなど出来なかった。そもそも彼女も被害者で自分と同じ目に遭っているのだ。彼女に怒りを覚えること自体見当違いなことだろう。


「いや俺は気にしてないから良いよ、祝さん」

「どうして私のことを……」

「一応俺は祝さんのクラスメイトなんだけど」

「……すみません。私学校ではあまり人と関わらないようにしてるもので」


 彼女は先程よりも更に申し訳なさそうにして顔を俯ける。彼女が顔を俯けた際に髪から泥水が滴り落ちていて、そんな光景を見てしまえば彼女をそのまま放っておくという選択は出来なかった。


「あの良かったらだけど家のシャワー使うか? ほら家目の前だし、まだ時間あるし、もしあれだったら俺は家の外にいるし」


 いくらなんでもこの提案はないかと自分で言って思ったのだが彼女は少し悩む素振りを見せる。


「ご家族の方はいらっしゃらないんですか?」

「兄弟はいないし、両親は仕事で今はいない……というか中々帰ってこないけど」


 今の言葉で何か結論を出したのか、彼女は少々遠慮がちにこちらへと顔を向けた。


「……もしご迷惑でないのならシャワーお借りしても良いですか?」

「どうぞ、じゃあ俺は外で待ってるから」


 あくまでも彼女にシャワーを貸すだけで他意はないとそう示すために宣言したのだが、彼女は少し不思議そうに首を傾げていた。


「どうして自分の家なのに外で待ってる必要があるんですか?」


 彼女からの純粋な疑問に狼狽えずにはいられなかった。だって普通に考えたらこの状況下で男が外で待っている理由など誰でも分かるだろう。だからこそ外で待つ理由は伏せたのだが、どうやら彼女には伝わっていないようだった。


「まぁあれだ。シャワーしている時に男が近くにいるっていうのも嫌だろ? そういうことだ」


 ということでしっかりとした理由を彼女に伝えれば、彼女は若干申し訳なさそうに肩を縮ませる。


「……すみません、気を回してくれてたんですね。でも私はそんなに気にしてませんよ、誰でもって訳じゃないですが少なくともあなたに対してはそんなこと思いません」

「どうしてそんなこと……」


 無意識の内にどうして家族でもない他人に対してそんなことを思ったのか聞こうとするが続けられた彼女の言葉に遮られた。


「だってあなたはそんな悪い人には見えないですから」


 前髪の隙間から一瞬だけ見えた彼女の笑顔に見とれてしまったためか、それとも信頼されていることがなんとなく照れ臭くなったのか分からないが、彼女の言葉に対して俺の口は自然と『そういうことなら家の中で待ってるわ』という言葉を漏らしていた。


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前略、家に都市伝説の幽霊『アオイさん』が住み着きました。~アオイさんは人見知りでちょっぴり自由なお姉さん~
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