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エピローグ

 気づくとニコル・クーン・ジュノーは、たった一人で洋館の屋根の上にいた。世界は真っ暗であった。いや、それは単に夜明け前だったからである。

 やがて、空に太陽が昇ると世界は灰色から色を取り戻していた。

 麦畑の麦が風に揺られている。以前、カモノハシと一緒に洋館の庭に小さな麦畑を作ったのだ。


 屋根の下では、ドメスティック・フラワーズが騒いでいる。


「' Nk-K.U.N-JN ' なぜいつまでも屋根にいるのですか?」


 ' Nk-K.U.N-JN ' とは、生命兵器製造者としてのニコルのコードネームである。ちなみに、ドメスティック・フラワーズが〈ダトゥル・ドゥ・ジョサ〉へ真紅のフォトンが照射したとき、攻撃許可を出したのが ' Nk-K.U.N-JN ' であり、つまりニコルである。



 ニコルがいる屋根にカボチャの芽が出ていた。アウグスが乗ってきた小さなカボチャがいた場所だ。カボチャの芽をそっと引き抜くと、ニコルはこの洋館の庭のどこかへ植えてあげようと思った。


 屋根の上から目を凝らすと、この辺りの草原一面に朝顔が花を咲かせていた。ミチザネが赤い宝石に入れた種がいくつにも拡散し、早くも花を咲かせたというのか。


 ニコルは世界を美しいと思った。


 ドゴリコ王国王都の大通りであった場所にも、一輪の ' 朝顔 ' が花を咲かせていた。




*〈後日譚? クロウの家にて〉*


 さて、' ネコ界 ' にいた ' 時を司る者 ' と上級カモノハシ、タカキとヤスユキの父親がどこへ行ったか? であるが、全員とある場所に転送されていた。

 ミチザネと、スライムの少年アウグスと母親の紅スライムもいた。

 そこは、砂漠の町マクアリアのクロウ・クーン・ジュノーの家である。



 ――ちなみにであるが、正確には、その家はクロウの家ではなく、カ・モギという名前の植物型生命兵器の研究者の家である。

 クロウはカ・モギ博士の家に住んでいるのであるが、カ・モギ博士は数年前、出稼ぎに行くといったまま行方不明となっている――

(注:クロウとカ・モギ博士は「森と海の物語」の登場人物です)



 白い蛇となったタカキとヤスユキもこの家にいた。彼らを見た ' 時を司る者 ' はクロウに言った。


「ジュノー王の末裔よ、この子らは人間であろう......ジュノー王家のそれもクーン家の末裔ともあろう者が ' 太陽の石 ' の使い方も知らぬのか?......仕方のないことよ」


 そう言って、' 時を司る者 ' は二人を人間に戻した。まあ、彼らが蛇になった一因は雷を落としまくった彼女にもあるのだが......

 人間に戻った二人を見て驚いたのはもちろん兄弟の父親である。

 兄弟は完全に父親にびびっている。殴られる。絶対に殴られる。そう思ったが、彼らの父親は二人を抱きしめた。



 ' 時を司る者 ' はこの親子と菅原道真(ミチザネ)を見て、「さあさ、楽しい時間旅行はこれで終わりだよ、私が元の時間まで連れて行ってやろう」と言った。


「スライムの母と子、お前達はどうする? この時代にいるか? 幸いこのバカのクロウ・クーン・ジュノーが大量に創ったスライムがここにはたくさんいるしな」


 この町にたくさんいるスライムは、カ・モギ博士の生命兵器実験設備を使用してクロウが創ったものなのであった。



 そして、それから、ここにはもう一人、転送されてきたものがいた。彼女を一人と数えて良いか分からないが......それはチチカカ・アハナ・ドゴリコであった。彼女をここへ導いたのはおそらく ' S.P.N.V ' であろう。


「チチカカ・アハナ・ドゴリコ、お前はどうする?」


 ' 時を司る者 ' は聞いた。しかし、彼女は瞬時には答えることができなかった。


「まあ良い。ゆっくり考えるが良い。チチカカよ、お前もついてくるが良い。お前が本来生まれるはずだった時間軸へ転生させてやることも可能だ。お前がどうしたいか、答えが出たら私に言ってくれ」


 ' 時を司る者 ' は上級カモノハシとチチカカと共に、ナダ親子、菅原道真(ミチザネ)を連れ、彼らの元の時代へと向かって行った。



***



 さて、このクロウ・クーン・ジュノーという男であるが、のちに彼は〈最終者(M.L.F)〉ノヴァを創り出すことになる。

 この後、この時代に戦乱が起こる。それは人類が互いに殺し合う壮絶なものであった。薬草屋のノヴァは戦乱により死亡し、その死を悲しんだゆえのことであった。



 そして、ニコル・クーン・ジュノーはクロウの数代後の人物である。ニコルは人類最後の人間となるはずであったが、彼は人類そのものを再度生み出した。

 彼が創り出した人類はまずユーフルという町を作った。

 ニコルが出会った少女は、ユーフルへ流れ着いた〈最終者(M.L.F)〉ノヴァである。彼女はその土地で人間の少女として過ごした。



 〈最終者(M.L.F)〉ノヴァは〈ダトゥル・ドゥ・ジョサ〉との戦いにおいて ' S.P.N.V ' となった後に、時間を遡りニコルを ' ネコ ' にした。彼に神としての力を与えたのも ' S.P.N.V ' であろう。


 それは、人類を再度生み出したことへの呪いだと言うが、本当は、' ネコ ' と共に永遠を生きるつもりであったのではなかろうか。


 しかし何の心変わりか、あるいは単に彼が生み出した人類が絶滅したためか、彼にかけた呪いは解いたようであるが......



『ヨウジョ・ワールズエンド・ノヴァ・スーパーノヴァ』 完


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました! お読みいただけた皆様に心から感謝申し上げます!

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