頭蓋骨の記憶〈Di e ta〉
ネコトラが頭蓋骨の山に近寄ると、アウグスが握りしめていた ' 賢者の石 ' がうっすらと緑色に光りはじめた。
子猫はネコトラから飛び降りて、頭蓋骨の山をガシャガシャ言わせながら登って行くと、山のてっぺんの頭蓋骨を見て"ニャ~"と鳴いた。
スライムの少年、アウグスも子猫の後を追って頭蓋骨の山を登った。すると ' 賢者の石 ' に呼応するように、てっぺんの頭蓋骨も緑色に光り始めたのである。
頭蓋骨の山のほかに、森のそのひらけた場所には3本の木が目立つように生えていた。それを見てネコトラは呟いた。
「"あれはホウセイの木か......?"」
ホウセイの木は、極めて珍しい植物型生命兵器である。ホウセイの木の花は妖精のような姿形をしている。花は一斉に咲き、青白い光を放つ。
そして、今まさにホウセイの木の花が一斉に開き、青白い光を放った。その光子もまた極微小の妖精の姿をしている。
ホウセイの木の花の青白い光と、賢者の石、てっぺんの頭蓋骨のうっすらとした緑色の光が混ざり合った瞬間、世界がぐるりと回転し場面が転換した。
気づいた時、そこは別世界となっていた。
そこは闇だった、世界のすべてを〈ダトゥル・ドゥ・ジョサ〉が覆っていたからだ。
それは醜い姿をしていた。動物の内臓の内側のような色をし、それが蠕動運動のように蠢いていた。闇の中でも、直接伝わってくるような不快な感触。
〈ダトゥル・ドゥ・ジョサ〉それは、 ' 生贄に捧げた者 ' である。
彼等の棲まう異界に『神』なるものがいるかは知らぬ。仮にいるとしよう。〈ダトゥル・ドゥ・ジョサ〉とは、その異界の神が人間に生贄として捧げた者である。
人間も生贄を捧げた。そして〈ダトゥル・ドゥ・ジョサ〉は異界の神が人間へ食糧として差し出したものである。
しかし、いつからか人間にとって不快な感触を持つものに変貌し、人間には生理的に絶対に受け入れることのできないものとなった。
少し離れた場所にぽつんと建つ洋館。二階建てで真っ白な壁、オレンジ色の屋根には風見鶏。
洋館から〈ダトゥル・ドゥ・ジョサ〉の中心部へと真紅の 光子 が放たれ、真っ直ぐな線をつくった。
光子 が照射された部分からコポリと汚らしい液体がこぼれ落ちた、〈Di e ta〉である。
それは呪われし王子である。かつて生贄にされた記憶を持ってこの世に生まれた者、ディエタ。
彼ら、' 悪しき者 ' と認識される者たちに意識という概念に相当するものは無い。しかし、ディエタは違う。彼は人間の胎から生まれた。ディエタ・アハナ・ドゴリコは、ドゴリコ国王妃から生まれた異界の者である。
やがてまた世界がぐるりと回転する。彼らは元の灰色の森に戻っていた。賢者の石、頭蓋骨の緑色の光も、ホウセイの木の青白い光も消えていた。




