黄金の絨毯
〈ダトゥル・ドゥ・ジョサ〉を見て意外にも平然としていたのは、カモノハシであった。それは、妖しく蠢く時間軸を見たときの方がはるかに怖かったからかもしれない。
子猫が金色の閃光を放つと、〈ダトゥル・ドゥ・ジョサ〉だったものの黒い水溜まりはすべて蒸発した。
カモノハシも朝顔の横に来て子猫を眺めた時、カモノハシは過去を見た。それは遥かな遥かな過去である。野良のカモノハシがそんなにも遠い過去を見ることはない。ここまで遥かな遠い過去を見ることができるのは最上級のカモノハシのみであろう。それでも、彼はその過去を見た。
少女と子猫の過去である。まだ人間が絶滅の危機に瀕する前のことだ。今回の絶滅の危機ではない。1度目の絶滅の危機より前ということである。人間がこの星の生き物の頂点に立つよりも以前ということだ。
ユーフル地方は肥沃な大地である。特に麦の栽培が盛んであった。初夏には一面に広がる麦畑の麦が成熟期をむかえ、ユーフルの強い日差しに照らされ黄金の絨毯のように見えた。少女はその黄金の麦畑を見るのが好きであった。
その日、その麦畑の中で彼女は1匹の子猫を見つけた。生まれたてのような小さな小さな子猫が、麦畑の中でみゃあみゃあと鳴いていたのである。
少女は、両親の許しを得て子猫を育てることにした。まだ本当に小さい子猫は、山羊の乳をよく飲んだ。子猫は少女のことを母親と思ったのか、どこへいくにも少女の後をついていったし、少女も子猫をどこへでも連れて行った。
収穫を終えると、ユーフル地方の人々は祭りを行う。そして、ユーフル地方独特のダンスを夜明かし踊るのだ。
秋になると、大人達は畑に麦の種を蒔いた。やがて麦が芽を出すと、麦踏みをする。麦踏みには子供達も参加する。少女は子猫と一緒に麦踏みをした。
そして集落の年配の女性から手ほどきを受け、少女はユーフルのダンスを踊った。子猫と一緒に。ダンスを踊った。
***
カモノハシが、夢から醒めるように過去視から現実に戻ると、目の前にいた子猫は ' 金色の蛹 ' になっていた。
「子猫が蛹になったぞ! どういうことだ!?」〈幼女〉朝顔は驚いた。
「猫の蛹だろ? 金ピカだな!」とカモノハシは言ったが、普通、猫は蛹にならない。しかし、カモノハシは金ピカの蛹を見て目を輝かせた。とにかく彼は光るものが大好きなのである。




