何もないとはいかないようで
「ねえねえ、椿ちゃんと何かあったの?」
昼休みの再突撃がなかったかと思えば、放課後にやってきた六角が突然一番触れて欲しくないことを聞いてきた。
普段通りの周りにも聞こえる大きさの声だったので、聞こえてこっちを見ている奴がいないかと周りを見たが、幸いまだクラスのあちこちで人が話していて騒がしい状態だったため聞こえていなかったようだ。
ほっと肩の力を抜く。何かあったわけでなくとも、何かしたのかと思われるだけでも面倒なことに繋がりかねない。和也がいるから、誤解であればささっと収めてくれるだろうが、波風立たないことのほうが手っ取り早くて楽だ。
「なんでそう思ったんだ?」
周りに聞こえないように少し小さめの声で聞き返す。
わざわざ放課後にやってきて聞いてくるということは、昼休みから放課後の間に何かあったのだろう。誰かに言ったりは俺からはしていない。六角も内容を知っている様子ではないので、香坂が何かしたのだろう。六角は人の細かい部分に良く気がつくからな。そのくせ、それを無視して絡んでくることも多いが。
「ハルトのことをちょっと聞かれてねー」
「お前と昼休みに話していたからじゃないのか?」
「それだったら、その人のことについてまで椿ちゃんは聞かないよー。会話のネタのために"仲良いの?"とかなら聞いてくることはあっても、どんな人とか何が好きとか聞いてくることはないよね」
香坂なりの人付き合いの仕方というものか。人気者の何気ない言葉でブームがやってくることもあるように、特定の相手のことを聞くというのはその相手に興味があると思わせる要因になる。単純な興味から聞いてしまったことが、その相手を好きなのかと勘違いされたり疑われる可能性もあるから、極力避けているのだろう。
そんな香坂が、わざわざ聞いてきたということは、"何か"があって相手のことを知りたいと思ったと推測できるわけだ。香坂も相手を選びはしたのだろう。六角なら周りにべらべらと話すことはしない。その代わりに、俺はこうやって絡まれることになるのだけれど。
「別に何かやらかしたとかではないからな」
「そんなの椿ちゃんの態度でわかるよ。というより、嫌な人のことの情報をわざわざ聞かないでしょ」
「それもそうだな。和也は知ってると思うけど、俺の住んでるマンションと香坂の住んでるマンションは同じだ」
「遊びに行った帰りにすれ違ったからね」
月に何度か遊びに来ていたら、一回くらい遭遇していてもおかしくはないからな。
むしろ、俺が家からあまり出ないから香坂と遭遇する機会が少なかったくらいだ。平日は学校があるから同じくらいに家を出るし、帰ってくるのも同じくらいになる。それなのに、ほとんど顔を合わしていないのは、ある意味すごい。
「それで、金曜の学校終わりにマンションに着いたら、香坂が鍵を無くして入れなくなってたんだ。だから、香坂の親が鍵を持ってきてくれるまでの間、俺の家で時間を潰していたってだけ」
「それで土日だってのにゲームにあまり入ってこなかったのか」
「お礼にってご飯連れて行ってもらったりしたから疲れたんだよ」
「親も一緒だと気を張っちゃうのは仕方ないけど、ハルトってば人付き合い苦手すぎ」
そんなに疲れたわけではないけれど、下手に言い訳をして根掘り葉掘り聞かれると面倒なので窓の外に視線を向けて逃げる。
このクラスは一番端の校舎でもさらに一番端に位置している。廊下側からなら中庭とグラウンドが見える良い位置だが、教室内の窓からは学校の外と校舎裏の無駄なスペースしか見えない。
「あれ? 椿ちゃんだ。また呼び出されてるのかな」
体育館が、正門から校舎への道と運動部の部室、グラウンドにテニスコートで囲まれているこの学校では、人を呼び出すとなれば空き教室か校舎裏になる。校舎裏に人が行くということは、告白の呼び出しかと見られるのは仕方がないだろう。
どの位置ならこうやって教室から見られないかは、告白をする奴ならだいたい調べている。校舎を曲がってすぐの位置は死角になっているので、ほとんどはそこで告白だったりが行われる。香坂が角を曲がり姿が見えなくなったので、六角が窓の外から俺の方へ視線を戻した。
「今日もまた一人の恋が終わるのね」
「まだ終わってもないのに哀れむな。それに告白かどうかもわからないだろ」
「あそこに行く時点で告白くらいしかないだろうけどね」
「そうよ。だから悲しみにくれる男のためにご愁傷様って言ってあげるの」
断るのは確定なのね。まあ、香坂の浮ついた話なんて聞いたことないし、気もないのに付き合うなんてことはしなさそうだ。
「そうだ、香坂に俺のことをなんて聞かれたんだ?」
「気になるー? ま、どうでもいいようなことだったけどね」
俺としては香坂の質問内容よりも、お前がなんて答えたのかっていう方が気になるし心配なんだが。あることないこと言いそうで怖い。変に気を使って香坂が何かしてきたら、それこそ面倒なことになる。
「いつもお昼はあんな感じなのって聞かれたから、だいたい寝てるかゲームの話して栄養ゼリーのんでるって言っといた。たまに死にかけてるとも言ったかなー」
「遠目から見てもそんなに死にそうな顔してるのか……」
「今日はまだ元気だと思うけどね。食事連れて行ってもらったのが良かったんじゃない?」
「そうそう。いつもはもうちょっと不健康そうな感じするもん。ま、それでもチビガリなのには変わりないけどねー」
「ガリじゃねえし」
「ガリってほどじゃないけど、食事をちゃんととってないから細いのは仕方ないね」
平均身長以下だからチビに対しては反論できない。和也は178センチくらいあるし、六角は162センチで俺と5センチしか差がない。
だが、ガリガリかと言えばそうではない。たしかに細身には分類されるが、体力を維持するために筋トレとかは合間にやったりしているので、それなりに筋肉はついている。
さすがに運動部とかと比べるとひょろいとは思うが、全くトレーニングをしていない帰宅部の細い奴と比べると結構筋肉はある。
「私とちょっとしか体重変わんないくせに」
「それはお前が重いだけだろ」
「ちゃんと痩せてますー! 50キロは切ってますー」
「ハルはちゃんと痩せてるよ。スタイルも良いし可愛いよ」
「かずくーん! そうだよね。ハルトがバカなだけだよね」
隣でいちゃいちゃとしだした二人を無視して窓の外を見ると、もう話は終わったのか一人で香坂が戻ってきた。
六角の言う通り、ご愁傷様ということだろう。見ていることがバレる前に窓の外を見るのはやめ、いちゃついている二人はそのままにして帰ることにする。
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