ゲーマーはゲームに逃げる
ゲーム・PC知識に関しては調べながら書いていますが間違っていたらすいません
残っているのは自分たちを含めて2チーム。その前の戦闘で、互いにどこにいるのかはわかっているから、すぐに勝敗は決まるだろう。
互いに3人ずつ残っているので数の差はない。場所的にはこちらが不利なので、勝負を仕掛けるしかないが、真正面から策なしにぶつかれば相手がミスしない限り負ける。
ゲームと言えども、こういった場面だと緊張してしまう。何度もプレイしてきたおかげで、焦ることなく状況は把握できている。
「右手前から順に落とす」
「了解」
一番敵に近い位置にいた仲間がVCで標的を伝えて動き出す。もう一人が少し膨らんでついていく。
装備的に俺はここからスナイパーで牽制しつつダメージを与えなければいけない。敵が簡単にカバーに入れてしまうと、2対3の局面ができてしまうので、それをなんとしても避ける必要がある。
たかがゲームといえど、目の前の勝負に負けたくはない。マウスを握る右手に少し力を入れて相手の動きを見る。左右に動くキャラに照準を合わせて撃つタイミングを見計らう。
「ちっ! 外したか」
一番遠い位置にいた相手が位置を変えようとしたので一発撃ったが、その弾はわずかに横に逸れた。だが、射線を切るために身を隠したので、そこからではカバーに入るのは間に合わない。
コッキングしている間に次に狙う位置を確認する。ぎりぎり間に合うが、余裕を持って狙える時間はない。
「先頭ヘッドショット入ったから瀕死!」
「さすが! あとはもらいます」
相手のヘルメットが良い装備だったせいで一撃で落とせなかったが、このスナイパーライフルならあと一撃で倒せるくらいの体力しか残らない。
詰めていた味方がワンショットでそいつを倒して、そのまま二人目、三人目と順番に二人で挟んで落とせば、俺たちの勝利が確定した。
「いやー、あそこでヘッドショット当てるのはさすがとしか言えないね」
「よくスナイパー当てられるよな」
「二人が気を引いてくれたんで、相手の動き止まってましたからね。できればその前の一番奥の奴に撃ったのも当てたかったんですけど、さすがにそっちは当たらなかったです」
リザルト画面が表示されてロビーに戻るまでの間に最後の戦闘の話をする。三人でやっていれば数回に一回はトップになれているので、白熱したシーンなんかが無ければそんなに話すことはない。今回も、最後の戦闘以外は見つけた敵を順番に倒しただけで、挟まれたり連戦になったりは無かった。
それだけ、この二人が上手いということでもある。1対1での正面からの撃ち合いなら、あっさりと負けることはほとんどない。負けるにしても相手のこともかなり削ってくれるから、遅れてでも回復される前に詰めれば勝てる。二人ともがその実力を持っているのでVCで連携が取れる状況なら、同じように慣れたパーティー以外に撃ち負けることはあまりない。序盤の装備が整っていない時なんかはあっさり負けることもあるが。
「あ、あの……」
「へ? ……うわっぁあ!」
肩に何かが触れる感触がしたから横を見ると、いつの間にか香坂が椅子の横に立っていた。マウスが床に転がり、空のコップも机の上で倒れた。
「大丈夫か!?」「何かあったの!?」
VCが繋がったままだったので通話先の二人が慌てて俺の状況を確認してきた。驚いて椅子から落ちかけた体を元に戻しながら言い訳を考える。
「い、いや……家族がいつの間にか部屋にいて驚いただけです。叫んじゃってすいません」
「親フラか。びびるのは仕方ないな」
「何もなくて良かったよ」
「あはは……ちょっと用があるみたいなんで落ちますね。また空いてたらお願いします」
「はいよー、お疲れー」
なんとか追求されることもなかったのでVCを切って肩の力を抜く。
隣を見ると、変わらずに香坂が立っているので見間違いではないようだ。この家でシャワーを浴びて、俺の服を着ているはずなのに、何故か良い匂いがしてくる。
少し眠そうないつも学校で見かけるときとは違うその表情にドキッとして、視線を壁に逸らしてしまう。
「ど、どうした?」
「そろそろ寝ようと思ったのですけど、どこで寝れば良いですか?」
もう寝る時間か。スマホを見るとすでに日付が変わっていたので、ゲームをしている間に時間が思った以上に経っていたようだ。完全に香坂の存在を忘れてゲームをしていたせいで、隣にいた時は本気で心臓が止まるかと思った。
「向こうの部屋で寝てくれていいよ。ベッドあったでしょ?」
「ありましたけど、この部屋にはベッドないじゃないですか。お世話になっているのにベッドまで使わせてもらうのは。私ソファーでも寝れますから」
広い家だと言っても、一人暮らしなのでベッドは一つしかおいていない。客人用の敷布団なんてものもないので、どちらかしかベッドで寝ることはできない。
たしかに急に泊まることになって、人の家のベッドを使うのは気がひけるだろうが、俺はどうせいつもベッドで寝ていないのでどこだっていいのだ。
「いつもこの椅子か、そっちのソファーで寝ることがほとんどだからベッド使ってくれていいよ。男のベッド使うのは嫌かもしれないけど、一ヶ月くらいはあのベッド使ってないし、布団は先週干したから臭いとかは大丈夫だと思う」
「あ、いえ、別に倉橋くんのベッドが嫌とかそんなのは無いので大丈夫です。それよりも、一ヶ月もベッドを使っていないってどういう生活をしているんですか……」
「だいたいさっきみたいにゲームをして、眠気がやばくなったらやめて、そのまますぐに寝てるかな」
三時とか過ぎてくると減ってくるけど、人気作ならマッチングには困らない。どうせ昼間は学校に行くだけだから寝不足でだってなんとかなる。夜くらいは気が済むまでゲームをしていたい。
「いや、本当によく生きてますね……」
「一日で二度も生きていることに驚かれるとはな」
「でも、やっぱりベッドで寝てください。たまにはしっかり寝ないといけないです」
「どうせ明日休みだから、今日は遅くまでゲームするから変わらないって。それに、あの部屋以外鍵かけられないんだよ。香坂だって寝てるところ見られたりするのは嫌だろ?」
「うっ……それはそうですけれども」
男の家で二人きり。さらに寝ている無防備な状態。鍵のかからない場所で寝るのはさすがにきついだろう。いや、別に何かしようなんて考えてはいないが、何かあるかもしれないと思うだけで気が休まらないものだ。
「普段はもう寝てる時間なんだろ? 俺のことは気にしなくていいから、向こうで寝てきなよ」
「……そうします」
「顔が眠そうだからな。じゃあ、おやすみ」
「お、おやすみなさい」
香坂が部屋を出ていき、寝室のドアが閉まる音を聞いてから冷蔵庫へとエナジードリンクを取りに行く。
家族以外と、というよりも同学年の女子が同じ家で寝ている。意識すると変なことを考えてしまいそうだから、眠気がきつくなるまではなにかをして気を紛らわそう。さっきのゲームは集中できなくて人と一緒にやると足を引っ張りそうだから、別のことでもやるか。