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二人きりの夜

 お弁当一つとおにぎり三つ。それに自分用にパンを二つ買って家に戻ると、何故かソファーに座らずに、フローリングに正座という罰ゲームかと言いたくなる状態で香坂が待っていた。


「なんでそこに座ってるの?」

「ノートパソコンが置いてあったので、そこは使うのかなと」


 そういやノートパソコンを開きっぱなしで行ってたな。かといって、座布団も何もなしにフローリングの上で正座をするのは辛そうだ。ソファーも二人用だから座ろうと思えば座れるが、間には肘置きもないので遠慮したのだろう。待っている間くらいは座っていても良かったんじゃないかって思うが。


 確か、親が買ってくれた座布団があったよな。引っ越ししてきた時に両親とこの部屋で晩ご飯を食べたが、その時に買ったやつを収納のどこかにいれていたはずだ。


 リビングの入り口にある収納の中は、散らかっていたものを適当に詰め込んだだけなのでぐちゃぐちゃだ。それでも物が少ないので、溢れかえることもなく、上の方にあるのは空のダンボールばかりだ。

 収納の中は明かりもないので、どこに座布団があるのかわからない、スマホのライトで照らしてみれば、ダンボールの下からはみ出た座布団があったので、それを引っ張り出して部屋に戻る。


「それでも使っといて」

「ありがとうございます」


 元からの習慣なのか、それとも人の家だからきちんとしているのか、座布団の上に座りなおしても正座から変わることはなかった。

 姿勢も良いし、辛そうでもない。普段から正座だったりきちんと座ることに慣れているんだろうな。俺だったら正座なんて十分も続けていたくないし、背筋を伸ばしたままでいるだけでも苦痛だ。


 俺はもたれかかって座りたい人間だから、ソファーの前に座布団を敷いて、ソファーにもたれかかるように座る。ソファーからはテーブルが少し低くて物が取りづらいので、食事をする時はこのスタイルが落ち着く。


「じゃあ、早いかもしれないけど飯食うか」

「そうですね。せっかく買ってきていただいたので食べましょう」


 弁当とおにぎりを香坂の前に並べると、おにぎりが俺の前に押し返された。

 あれ?買う数間違えたっけ?たしか弁当とおにぎり三つって言われたはずだったよな。


「どうせ自分の分はあまり買わないだろうと思ったので。食べれなかった分は明日の朝ご飯にします」


 ああ、それで俺の好きな物を買ってこいと言ったわけね。パンとおにぎり、明日の朝なら問題ないけれど、期限的におにぎりの方が短いのでおにぎりを食べることにするか。

 そういやおにぎりって久しぶりに食うな。パンの方が手軽だし、安い割に大きいのもある。レンジでできるご飯のパックは家にあるから、米が食べたい時はおかずだけ買ってパックのご飯を食べていたから、意外と買ってなかったな。


「コンビニのお弁当も美味しいものですね」

「まあ、食えたもんじゃないものは売らないし、それなりの味がなければ誰も買わないだろ」

「それもそうですね。値段も安いわけじゃないですから」


 コンビニ弁当も食ったことが無かったのか。半年くらい一人暮らしをしていて、一度も食べていないという方がかなり珍しいと思う。

 コンビニ弁当って、スーパーのお弁当よりは割高感があるから俺もあんまり買わないけど。


「あ、私も毎日作っているわけではないですよ。作り置きしたものを温めるだけの時もありますし、スーパーで惣菜を買うこともあります」

「それでもすごいと思うがな。俺なんて袋ラーメンですら十回も作ってないからな」

「そちらの方がすごいと思います。よくそれでお金が持ちますね」

「仕送りで月三万くらいは家賃とか抜きでもらってるからな。出かけたりしなければそんなに金はかからないし」


 それに仕送りだけじゃないからな。さすがに外食ばっかとか高いものを買わなければ、食費だけでは三万もいかない。一日三食だとして、一食平均三百円くらい。俺の場合はだいたい一日一食か二食だし、その半分以上が近くのスーパーで一つ百円しないゼリー飲料か、一本二百円くらいのエナジードリンクだ。残りを買って食べたとしても、そんなに金はかからない」


「節約する気はないんですか?」

「簡単にできるならしたいが、苦労するくらいなら今のままでいいね」


 買い出し、調理時間、洗い物まで考えればそれなりに時間は使ってしまう。それで満足のいく味が出せるならまだしも、そこそこな味なら買って食べる方が手っ取り早いし楽だ。

 実家にいた時の母親のありがたさはひしひしと感じるが、それよりも一日中自由にできる方が今は良い。


 なければないで、人は意外と順応するんだなって思う。やりたいことをやっていられるなら、他が最低限でもなんとか生きていけるものだ。




 おにぎりを三つと、四個入りだったクリームパンの内の二つを食べたところで十分お腹は膨れたので残った分は袋にしまう。食べようと思えば残りも食べられるが、満足しているのに無理に食べる必要もない。


「思ったよりも食べましたね」

「食べられないわけではなくて、食べなくても大丈夫ってだけだからな。目の前にあれば食うさ」

「そうみたいですね。食べなくても大丈夫というのが私にはわかりませんが」


 人によっては一食や二食抜いただけでもお腹が空いてダメだって人もいるからな。

 たしかに胃の中が空っぽになると気持ち悪くなるが、水でも飲んでれば問題ないし、何かに集中していれば気がつかないんだよな。


「俺は奥にいるから何かあったら呼んでくれ。部屋にあるものは何でも使ってくれていいから。ネットみたりするならそのノートパソコンか、向こうの部屋においてあるタブレットを使ってくれていいから」


 パソコンを使うのかは知らないが、この家にあるもので時間を潰せるものと言えばパソコンくらいしかない。

 話して時間を潰すことはできるかもしれないが、一人の方が気を張らなくて良いだろう。それに会話のネタもないから、俺が耐えられない。

次話からようやくタイトル回収

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