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悠人は

気がつけば超絶説明回に

「それで逃げてきたんだね」


 逃げてきたと言われれば否定することはできない。あの場に残ると色々と大変そうだったので、彰の家に泊まりにきたのだ。こうすれば、誰かが窮屈な思いをする必要もないし、香坂に俺の部屋で我慢してもらえば良いだけなので手っ取り早い。

 たしかに一番合理的な答えではあるが、その中にそこから逃げたいという俺の意思が無いとは言えない……いや、むしろ逃げたいという意思の方が強かった。


「さすがにあの状況でだらだらしていられないし、かといって何かできるわけでもないから出て行く方が楽だろ」

「結局は問題を後回しにしているだけなんだけどね。当人がいなくなってからの方が弁明しやすいってのはあるかもしれないけれど、手遅れって可能性もあるんだよね」

「別に誤解されようが、ようは結果が大切なんだから関係ない」


 どうせ学校が始まれば、春までは実家に帰ることもないだろうし。

 付き合っていると誤解されたところで、高校生の付き合いなんて簡単に別れることだってあるのだから、適当に誤魔化すことだってできる。


 現状で一番の問題は、鈴音が香坂に懐いていることなのだ。あの二人の仲が良くなればなるほど、俺も巻き込まれる可能性が上がり、鈴音がいると俺の逃げ道がかなり狭くなる。血の繋がった仲の良い妹が敵に回るのはきつい。


「あんなに人とすぐ仲良くなるような奴じゃなかったと思ってたんだけどな」


 俺が高校に入る前は、人付き合いが極端に悪いというわけではないが、そんなに仲良くしている様子はほとんど見たことがなかった。休みの日に友達と出かけるなんていうのも、向こうから誘われてグループで出かけるなんてのはあっても、自分から出かけることはなかったし、ほとんど俺か彰と一緒だったイメージだ。

 だからこそ、鈴音が香坂と鉢合わせて険悪な雰囲気になったりしないか心配したくらいなのに、すぐに仲良くなったので驚いた。


「そう? 何も変わっていないでしょ。悠人がわかっていないだけで」

「簡単にわかれば苦労しねえよ。彰は俺よりも鈴音に詳しいよな」

「わかりやすいからね。それに、僕と鈴音ちゃんは似ているから」


 彰と鈴音が似ているってのはピンとこない。俺と鈴音は似ていると言われることはそれなりにあるので、彰と鈴音が似ているなれば、俺と彰も似ている部分があるということだ。

 いや、彰と似ているところなんて思い浮かばない。


「似ているのは見た目とかそういうのじゃないよ。簡単に言えば考え方かな」

「考え方ね。俺をからかって楽しむあたり似ているよな」

「あはは。それも一部かもね。悠人は自分が楽しいか、楽をできることを求めるでしょ?」


 そりゃあ誰だって楽をしたいし、楽しい方がいいに決まっている。それで生きていけるのならば。

 自分を追い込む方が好きな人もいるけれど、それはそれで楽しんでいるのだから、楽を取るか楽しみを取るかの差だ。


「だから悠人は楽をするために無意味に裏切らない。自分が楽しみにしていることのためなら変わることすら怖れない。そういうところが好きだよ」

「そりゃどーも。でも、人なんてだいたいそうだろ」

「そうは思っていても、折れることが多いのが普通の人だよ」


 俺だって無理なことならば折れるぞ。できることだからやっているだけで。そう思っていても反論はしない。自分に対する評価なんて、自分から見るのと人から見るのでは違ってくるのもまた仕方がないからだ。


「僕と鈴音ちゃんはそんな悠人を信頼しているんだよ。悪く言えば、本質は変わらない悠人に依存しているとでも言ったところかな」


 それはまたピンとこない話だな。彰なんて俺がいなくても問題がないどころか、むしろ俺が足を引っ張っているようにすら思うのに。

 高校は彰にある程度合わせて、わざわざ家から遠いところを受験したが、それでも彰の頭の良さと家の力を考えれば、あの程度のちょっと良い進学校レベルの学校に通っていることがおかしい。彰の頼みで受けたとは言え、彰も俺が許可して、その上で合格できるレベルまで落としたのは目に見えている。


 ……そうか、俺から見ていたからわからなかったのか。俺が助けてもらっている。足を引っ張っている。そう思っていたことが、彰が俺の近くにいるためにわざと近寄ってきていた。そう考えればおかしくはない。俺が望むものを同じように彰が望んでいたのだ。

 それはわかったとしても、鈴音が香坂に懐いた理由はわからないんだけどな。


「悠人は楽をしたいから、人との付き合いも自分に利があると感じるかどうかで変わる。だからこそ、本当に仲良くしている人、信頼している人っていうのは貴重なんだよ」


 それも誰だってそうだろう。面倒な相手とわざわざ仲良くしようとしない。

 たしかに休みの日に遊ぶことのある相手というのはかなり限られているし、連絡先を交換しても残している相手は少ない。中学の時の友達の連絡先なんて、もう残してないし。


「鈴音ちゃんは仲の良い友達なんてほとんどいないよ。悠人がいないところでは、あんな風に楽しそうに笑うタイプでもないからね。どちらかと言えばクールな、一歩引いて人のことを見ている感じだね」

「今の鈴音からは、全然そんなイメージができないんだよな。昔は大人しい感じだったけど」

「悠人がいないところでは猫を被っているというか、あまり周りに興味がないんだと思うよ。鈴音ちゃんの世界は悠人を中心に回っていると言ってもいいくらい」


 たまに誘われて遊びに行ったりはしているみたいだから、ある程度は人付き合いもしているみたいだけどな。そういや、彰とか以外の誰かと一緒に撮った写真とかは見たことがないな。話もほとんどしないし。遊びに出かけて誰かといるところをチラッと見たことはあるので、遊びに行ったこと自体は嘘ではないけれど、俺といる時とはキャラが違うから見せたりはしてくれないということなのか。


「鈴音ちゃんは悠人が信頼しているものは信頼する。だから、僕と会った時もすぐに仲良くなったし、今回の椿ちゃんもまた同じなんだよ」

「理由はわかったが、よりにもよって香坂相手にもかよ……」

「仕方ないでしょ。家に一人残して出かける悠人も悠人だし、そんな中リラックスして寝てしまった椿ちゃんも椿ちゃんだしね。互いに信頼していないと、そんな状況にはならないでしょ」

「……お前が呼び出さなかったら大丈夫だったのに」

「あはは、ごめんね」


 俺が本気で責めているわけではないことなんて、彰にはわかっているようで、口では謝りながらも楽しそうに笑っている。

 実際問題、俺が香坂を置いてでかけたのが悪い。それが、信用から来たものだというのも正しいし、俺のことをよく知る彰や鈴音がそれを知れば、すぐにどのくらい俺が気を許しているのかはわかるだろう。


「それにしても、さっそく家にまで呼ぶなんて、鈴音の行動が読めない」

「それも簡単なことだけれどね。椿ちゃんと一緒にいても、悠人はいつも通りでしょ?」

「別にどうこうしたいとかは思ってないからな。邪魔もしてこないから、いるならいればって感じだし」


 付き合いたいとかそんな気はない。香坂と付き合ったら学校で色々と面倒なことになりそうだし、付き合うよりもゲームしたりしている方が断然楽しい。

 これもまた、彰が言うように俺が楽と楽しみを求めているということなのだろう。


「椿ちゃんいても悠人が変わらない。そして鈴音ちゃんが悠人と一緒にいても何も邪魔されない。だから、鈴音ちゃんとしては、変な人とくっついて悠人が変わったりするよりは、椿ちゃんと付き合って自分も一緒にいたいと考えているんだろうね」


 俺と一緒にいたいからこそ、俺と一緒にいることを許してくれる人を俺の横に置こうとする。おかしくはないけれども、そう上手くいくとは思えない。最終的には互いの気持ちというのが大きな障害になる。


「この前にも言ったけれど、僕も悠人も普通には付き合えないだろうね。僕は悠人といる今が好きだから、悠人は楽で楽しい今を変えたくないから」


 そうなのだ。そこは簡単には変わらない。付き合うことにそれ以上のメリットがあると思えないからこそ、付き合いたいという思いが出てこない。


「でもね、それを知っている鈴音ちゃんには簡単なんだよ。第一前提の一緒にいても苦ではないというのがわかっているからね」

「たしかに一緒にいても、ほとんど気を使わなくていいし、むしろ色々やってくれるから助かるが」

「うんうん。だから、あとは付き合う方が楽だと思わせればいいんだよ。その一つとして、外堀を埋めきる。どうなったの? 付き合わないの? と面倒な絡みを毎回色々な人からされるくらいなら、付き合った方が楽でしょ?」


 だから杏花さんにも話をして、俺の親に合わせるために家に呼び、彰の親にも伝えるために力を借りたのか。

 ……もうほとんど埋まってるじゃん。


「あはは、悠人は自分のことには鈍いからね。まあ、最後は二人の気持ちだから、そこは鈴音ちゃんにも僕にもどうしようもない。最後の一歩は自分の気持ちと向き合って決めるんだね」

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