表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/33

策略と偶然と

「お兄ちゃんいつまで寝てるの」

「別に休みなんだからいいだろ。鈴音も休みの日なんだから、たまにはゆっくりすべきだって言っていたし」

「それはそうだけど限度ってものがあるよ。もう一月三日だよ。こっちに帰ってきてから、ずっとそうやってだらけてばかりじゃん」


 もう年が明けて三日目なのか。だらだらしていると、いつのまにか時間が過ぎ去ってしまっている。もう一週間も残っていない冬休み。できるのであればこのまま学校なんて行かずにだらだらとし続けたいが、一人暮らしの部屋に戻ってゲームもしたいので実家に居続けるわけにもいかない。

 枕に顔を埋める俺の背中を片手で軽く叩きながら、肩をがさがさと揺さぶられてはゆっくりもしていられない。体の力を抜いて鈴音にされるがままにうつ伏せだった体を仰向けにひっくり返された。


「は? なんで?」

「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

「あ、うん。明けましておめでとう。で、なんで?」


 俺のベッドに膝を乗せた体勢の鈴音。その後ろには、いるはずのない人物である香坂が立っていた。


「この前話してたでしょ。お母さんに料理教えてもらおうって。それで呼んだの」

「いや、話をしてたのは聞こえていたけどさ」


 それで呼んだのって言われても、はいそうですかとはならないだろ。話をしてから二週間も経っていないし、あの時は春休みかそれ以降みたいな感じだったじゃん。

 それに、今は年始で香坂もいろいろあるだろうし、一人暮らしをしていたのだから、家族でゆっくりする時間も必要だろ。


「つーちゃんの両親がね、ハワイのペアチケットを当てたんだって」

「は? まあ、たまに抽選とかであるよな」


 当たってるところなんて見たことはないが、当たりくじがないのはそれはそれで問題があるから、少なくともどこかで当たっている人がいてもおかしくはないよな。


「で、ペアチケットだし、当てたのが年末で時間がなかったからつーちゃん一人残すか、行くのをやめるかってなったから、うちに来ない?って誘ったの」


 年末に当てて、もう出発すると。いや、さすがにそれは無理がありすぎるだろう。どんな売れ残りのチケットなんだよ。


「で、なんでお前がそれを知っているわけ?」

「い、いやあ……つーちゃんから相談があって……ね?」

「そ、そうです。ちょうど鈴音ちゃんと連絡をとっていたので、ついぽろっと言ってしまいまして」


 いくら鈴音が俺の妹で、一回あって仲良くなったからと言って、香坂が一回しか会っていない相手にそんな重要な相談をするとは思えない。

 それに、誤魔化そうとして目が泳いでいるのがバレバレなんだよ。


「で、本当は?」

「いやー……ちょっとおじさんに頼んでみたら、すぐに話が進んじゃって。無駄にするのも悪いし、つーちゃんが困ってるだろうなーって思って誘ってみたの」

「はあ……ここにいるってことは香坂は問題なかったのだろうし、母さんとかにも許可はとってあるんだろうから、今更帰れとは言わないけどさ。もう少し後のことを考えて発言しろよな」


 特に彰の家で迂闊なことを言えば、どこまで本当になってしまうのかわかったものじゃない。別におじさんもおばさんも浪費家というわけではないのだが、普段自分ではあまり使わない分、彰や俺達にはお金を使おうとするんだよな。


 あの人達がやる気を出せば、ハワイ旅行くらいポンと用意してくるだろう。だが、香坂の両親の予定なんかもあるから、そんな一週間もないような期間で決めるのは難しいだろう。


「つーちゃんのお父さんが働いている会社が、おじさんの会社だったからとんとん拍子で進んじゃったよ」

「……まじか。いや、まあ可能性はあるよな」

「ちょうどつーちゃんの家が、ここから会社を挟んで反対側だったからそこまで遠くなかったのも助かったね」


 ここからおじさんの会社までは車で三十分くらい。そこからさらに三十分ちょっとで着くらしいので、車で一時間ちょっと離れているから近いわけではないが、そこまで遠いというわけでもない。これが、学校から完全に反対方面だったりしたなら大変だっただろう。


 偶然と策略が重なり合った結果、想定以上にすんなりと話が進んでしまったということか。まあ、金だけ使って無駄になったり、ごちゃごちゃともめることにならなくて済んだのは良かったと言っていいだろう。


「それで、来てもらったのはもう仕方ないとして、どこに泊まるんだよ」

「うーん……私の部屋で一緒に寝る?」

「お前の部屋に泊めるなら掃除しないとな。もう一人寝るスペースはないだろ」


 物の少ない俺の部屋と違って、鈴音の部屋はそれなりに物はある。それでいて片付けとかは面倒くさがってほとんどしないので散らかっている。足の踏み場もないというほどではないし、ぐちゃぐちゃに置かれているわけでもなく、ただ押入れに戻したりするのが面倒で表に出されているせいでスペースが埋まっているだけなので、俺も母さんも普段は何も言わないが、人を泊めるとなると問題がある。


「別に散らかっていても大丈夫ですよ?」

「さすがにこっちが誘ったのに、あんな場所で寝させるのは申し訳ないから」

「じゃあ、お兄ちゃんの部屋で寝ればいいじゃん」

「いや、それも問題があるだろ」


 手を出すつもりはないが、それでも同じ部屋で寝るのはさすがにないだろ。向こうで泊めることになったあの時だって部屋は別で鍵もかけられるからこそ泊めたっていうのに。

 俺の部屋で鈴音と香坂が寝て、鈴音の部屋で俺が寝るか。俺の部屋を香坂に使ってもらって、俺はリビングのソファーで寝るか。どっちにしろ俺の部屋は香坂に使われるわけで、家でだらだらするのはできなさそうだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ