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帰省

「荷物はそれだけでいいの?」


 それほど大きくない鞄を一つしか持っていないので忘れ物がないか心配になったのだろう。どうせ服なんかは実家に十分な量が置いてあるし、持って帰るものなんてない。パソコンはさすがに持って帰るのは大変なので、家にある性能の低いパソコンで我慢するしかないが、どうせ二週間もないのでそのくらいは仕方ないと諦めよう。戻ってきたときに久しぶりにまともにゲームをしたら下手になっていそうで怖い。


「持って帰るよりも家に残っているものを使う方が良い物が多い」

「悠人ってば、自分では基本的に安いのしか買わないからね。パソコン関連以外は」

「使えればいいからな。大事に使うより、傷んできたら買い替える方が楽だし」


 高い物は長い間使えるとか言うけれど、手入れするのも面倒だし、長い間使ってたら飽きてくる。どこに置いたか忘れたりすることも多いから、気軽に買い替えることのできる安物の方が良い。さすがに使えるか怪しい激安品とかに手を出すのは怖いが。


「準備ができたなら行きましょうか。今からならお昼には着きますから」

「はーい! 杏姉も一緒に乗ろー」


 俺と彰のためにドアを開けて待っていた杏花さんが、鈴音に腕を引っ張られて車の中に連れていかれる。運転は杏花さんではなく別の人がするので、俺たちが乗ったら杏花さんも後ろに一緒に乗る予定だったので問題ないと言えばないのだが……まあ、いいか。


 ここから実家までは車で二時間もかからないくらいなので、少し混んでいてもそれほど時間はかからない。冬休みだから少し混んでいるかもしれないが、まだ年末のラッシュには早いので大丈夫だろう。

 とはいっても、この車は普通の車と違って、後部座席はコの字型のシートになっていて四人ならゆったりとくつろげるので倍くらいかかっても何とかなりそうだ。冷蔵庫もポットもあるし。


「お茶でもどうぞ」

「ありがとうございます。別に杏花さんもゆっくりしておいてくださいね。どうせ僕たちしかいないので」

「はい。まあ、ずっとこれで慣れていますので。飲み物の用意くらい手間でもありませんから」


 杏花さんは両親とも彰の家で使用人をしているので、ずっとそれを見て育ってきている。彰の世話役になったのも杏花さん自身が高校生の頃だったので、俺たちに対してだらっとした姿を見せる方が違和感があるのだろう。しっかりした人だから、一人でもだらっとしたりしていないのかもしれないが。


「そっか。お兄ちゃんが身の回りの世話をつーちゃんに任せちゃうのは、杏姉の影響もあるのか」

「悠人君の良い人ですね」

「違いますから。一緒にゲームしている友人です」

「ふふふ、そういうことにしておきます」


 鈴音が彰の家に泊まっていた間に、しっかりと話は伝わってしまっていたようだ。杏花さんが直接からかってきたりすることはないだろうが、優しいその目がまた鈴音や彰とは違う居心地の悪さを感じる。


 鈴音と杏花さんが楽しそうに話しているので、俺と彰は二人で話ながらアニメを見る。ゆったりとしたソファーのような座席に、コップが倒れないようにはめる場所のあるテーブル。Wi-Fiもあって、ポータブル電源と車からの電源で冷蔵庫とノートパソコンも使っていても一日以上電源が切れないようになっている車内は、はっきり言って住めるレベルだ。


「最近はどうなの? 何か進展あった?」

「別に何もないよ。そういうのは求めてないから。お前の方こそいっぱい声かけられているのに何もないのかよ」

「僕もそういうのは求めていないからね。僕も悠人も……普通が何かはわからないけれど、少し変わっているからね。相手のことを好きになって告白して付き合うなんてことはないだろうね」


 たしかに変わってはいると思うが、彰と俺が似ているとも思わない。それに恋愛なんてよくわからないから、告白したいと思うこともあるかもしれないし、彰の言うようにそんなことにはずっとならないのかもしれない。

 一つ言えるのは、彰や香坂に寄ってたかって告白したりする人の気持ちはわからない。


「俺はともかくお前はそれで良いのかよ」

「別に恋人や婚約者なんかがどうこうっていう話はないからね。本家の方の跡取りからは外れたから、自由にしたら良いって言われてるし。もし、学校の人とかと付き合うとしても、遊びかお試しになっちゃうから付き合ったりはしないよ」


 比べちゃってどうせがっかりするからね。と呟く彰だが、その表情は別に悲しそうでもさみしそうでもなく、どちらかと言えば満足しているような表情だ。

 今あるものと比べて、それが必要かどうか。そういった考えが邪魔をする。それならば、俺と彰は同じなのだろう。その対象が何なのかは全然違うと思うが。


「あはは、静かになったと思ったら鈴音ちゃん寝ちゃってるね」

「すいません、杏花さん。邪魔になったらどけてもらって大丈夫なので」

「別に大丈夫ですよ。彰様は甘えたりされないので、こうやって甘えてくる鈴音ちゃんは可愛いので」


 杏花さんの膝に頭をのせて眠る鈴音を見ると、杏花さんと鈴音が姉妹なのかと思えてくる。鈴音自身が杏花さんのことを姉のように慕っているし、杏花さんも鈴音のことを可愛がっているので、知らない人から見れば完全に姉妹だろう。

 俺と鈴音は似ていると言っても、鈴音が俺に寄せてこない限りは見た目でパッとわかる程似てはいないし、俺と彰の容姿は全く似ていない。外から見たら俺以外の三人が家族っぽく見えるだろう。


 気持ちよさそうに寝ている鈴音を見ていると、俺も眠たくなってきてあくびが漏れる。外の寒さは車の中では全く感じず、暖房で心地よい温度に調整されている。安全運転というあまり揺れないように運転してくれていることもあって、わずかな揺れも眠気をさらに誘う。


「悠人さんも寝ますか? 肩なら貸せますよ」

「僕の膝で良かったら貸せるけど」

「クッションがあるので大丈夫です。着いたら起こして」

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