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来るものは 3

「はあ、はあ……もう来ていそうだな」


 マンションの下まで戻ってきたが、ここまでの間に鈴音と会うことはなかった。自分が楽しみにしていることに対しては、時間もきっちり守るタイプだから遅れてくるなんてことは期待できない。

 いっそのこと、このまま外でゆっくりしていたい気分でもあるが、鈴音と香坂を二人きりにしておくわけにもいかないので戻るしかない。

 ボタンを押してゆっくりと降りてくるエレベーターが、これほど来て欲しくないと思ったことはないだろう。


 急いで戻ってきたせいで、少し熱くなっていた体が風で冷やされる。汗も少しかいているので、急激に冷えて寒気が襲う。エレベーターからすぐそこの距離なのに長く感じた時間も終わり、玄関のドアに手をかければすんなりと開いた。


「静かだな」


 鍵がかかっていなかったということは、鈴音がすでにきているはずだ。家を出るときに鍵はかけたはずだから、香坂が鍵を開けたまま帰るとも考えられない。

 それなのに、奥から話し声が聞こえることもない。リビングに繋がるドアが閉まっていれば、奥の音はほとんど聞こえないけれど、それでも全く聞こえないというわけではないはずだ。どういう状況なのだろうか。


 不安にかられながらもゆっくりと進んでいけば、いつも香坂が座っている椅子ではなく、リビングにあるソファーで何故か鈴音が後ろから香坂を抱きしめて座っていた。


「なにやってんの?」

「え!? 倉橋くん?」

「可愛かったからつい」


 全く状況の掴めていない香坂と、にやにやとしながら立ち上がる鈴音。ゆっくりと俺の方にやってきて横に並んだ鈴音を見て、香坂が二人を見比べる。


「あ、あれ? 倉橋くんと……」

「妹の鈴音です。よろしく椿さん」

「あ、はい。香坂椿です。よろしくね?」


 彰から話を聞いていたのだろう。会えるかもしれないと思って、狙ってやってきたようだ。

 鈴音の服装は、俺が彰に選んでもらったあの買い物の時の服装と同じ。髪型も同じようにして、化粧の類は一切していないようなので、パッと見れば見間違える可能性があるくらいだ。

 さすがに隣に立てば、男子の平均身長よりは低い俺でも、鈴音よりは背が高い。顔も化粧をしていなくても鈴音の方が女の子らしいので比べればすぐにわかるが、人から見れば結構似ているらしい。


「何の連絡も俺にはせずに泊まりにきたらしい。悪いな」

「い、いえ。何もされてませんし、倉橋くんの妹さんなら大丈夫です」


 いや、初対面で思いっきり抱きしめられていたけど……本人が大丈夫って言うなら、いいんだけどさ。


 鈴音の肩を引っ張って部屋の隅に行く。とりあえず、いろいろと誤解してそうだから言っておかないと。


「恋人?」

「違う。同じ学校で、下の階に住んでいるだけ。パソコンやらゲームに興味があったみたいで、教えてくれって言われたから教えているだけだ」

「うーん……お兄ちゃんはそうなのかもしれないけど、向こうは違うっぽいよ。私とお兄ちゃんを間違えていたなら、抱きしめられたら抵抗するのが普通じゃん」

「ぐっ……それでも、恋人ではないのは確かだ」


 正論を叩きつけられたらどうしようもない。だが、一線を超えていなければセーフ。それもまた正論。


「面倒だとか、あーだこーだ考えていても後でツケが回ってくるだけだよ。いつもそうじゃん」

「流されて生きていけるのなら、自分で踏み出さないのが俺の生き方だから」


 だって、彰だってお前だって行動力が半端ないんだもの。俺がなにかをしようとしても、たいていはぶち破って軌道修正されるのだから、初めから道を待った方が楽だ。

 性格に関しては、俺と鈴音は似ていない。鈴音は母さんに似て自分から行動派だし、俺は父さんに似てぎりぎりまで待つ派である。やらなくてもいいならやらずにいたい。


「ふんふん。道ができていればいいのね」

「そういうわけでもないけどな。嫌なら逃げる」

「それでいいよ。私もあっくんも逃さないけど」


 お前らは別にいいんだよ。俺の本気で嫌がることはしてこないから。

 にやにやとしたからかいモードから、普段の少しだらっとした雰囲気に鈴音が戻ったので、肩を離して香坂の方に戻る。


「椿さんもゲームやるんですか?」

「あ、うん。まだ下手ですけどね。あ、普段通りに話してもらって大丈夫ですよ」

「じゃあ、つーちゃん一緒にゲームしよ」


 普段通りで良いって言われたからって、急に馴れ馴れしくしすぎだろ。緩急についていけずに苦笑いをする香坂をよそ目に、鈴音は自分の鞄を漁る。

 そんな大きな鞄を持ってくるなら、着替えくらい家から持ってこいよ。


「はい、お兄ちゃん。セッティングして」

「は? お前……これどうした?」


 鞄の中からさらに何かの入れ物を出したかと思えば、その中に入っていたのはノートパソコンだった。それも、ゲーミングノートパソコンでそれなりの値段がするやつだ。


「誕生日におじさんにおねだりしたらくれたの」


 簡単に言ってくれるが、十万円以上はするものだぞ。いや、彰の家ならぽんと出しそうな金額だが。

 それでも、おねだりするような物でもないし、誰か止める奴はいなかったのか……俺と彰と杏花さんがこっちにいるからいないか。彰の両親からは、娘が欲しかったとか言われて甘やかされているし、何人かいる使用人の人達からもお嬢様扱いだもんな。年の近い杏花さんは妹のように接しているが、他の人から止められるようなことはなさそうだ。金銭感覚も狂ってるし。


「で、もらったはいいがセッティングすらしていないと」

「おじさん達は忙しそうだし、お父さんはパソコンとかゲームのことになると話長いから面倒だもん」


 たしかに父さんに頼むのは面倒だな。やってくれと言っても、隣で教えながらになるし、どうでもいい知識や昔話を入れ出すのでなかなか進まない。

 そうは言っても、放置せずに調べながら自分でやるとかいろいろあっだろうに。


「ゲームのインストールすら何もしていないのな。ネット見ただけかよ」

「家のタブレットと違って固まることもなくて快適だったよ」

「そりゃそうだろうな。インストールとかしとくから、俺のパソコンを使うか、置いてあるゲーム機で遊んでおいて」

「はーい。じゃあ、つーちゃん向こう行こ」

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