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来るものは 2

「それで荷物って?」


 電話がきてから二十分後。寒くて面倒だったのでバスを使ったのもあって少し遅くなった。俺の住むマンションからだと、駅を通り越して少し行ったところにある高層マンションに彰は使用人と一緒に住んでいる。

 座っているソファーから見える窓の先を探せば、俺のマンションも見えるくらいだ。


「まあまあそんなに焦らないでよ。お茶でも飲んで落ち着いて」


 出されたのは俺の家にも置いてあるティーバッグに入ったスーパーで売られているお茶だ。杏花さんの姿が見えないから出かけているのだろう。そうなると、彰が自分で用意したということだから、手間のかかるちゃんとしたお茶なんて用意しないよな。俺も彰も気軽に飲むならこっちの味の方が好きだし。


「冬休みはいろいろと忙しいね」

「俺はあいにく用事もないからゆっくりとさせてもらっているがな。杏花さんは準備でもしてるのか?」

「向こうからこっちに手伝ってなんて頼んで来ないよ。明日の服を取りに行ってもらってるだけ」


 毎年クリスマスイブは本家の方でパーティーがあるらしい。ほとんど身内だけらしいが、それでも家の規模からすれば面倒なことこの上ないだろう。代わりに年始は各自忙しいからって家の集まりはないみたいだが。


「服なんて余ってるだろ。わざわざ新しくしないでも」

「悠人と違って、今年で五センチ身長が伸びたからね。前のだとサイズが微妙に小さいんだよ」

「俺だって一センチは伸びたし」


 四捨五入すれば一センチ伸びている。誤差ではなくちゃんと伸びているのだと信じたい。


「悠人も一緒に来ない?」

「行くわけないだろ。お前とお前の両親とあの爺さんくらいしか知らないのに」


 彰と仲が良いと言ったって、彰の親戚まで顔見知りなわけじゃない。ほとんど知らない人ばかりなのにお邪魔できるほど、俺のメンタルは強くない。


「爺ちゃん知ってれば大丈夫だけどね。今の会長だから、一番上みたいなものだよ」

「それでも嫌。あの人、怖いから顔を合わせたくない」


 別に悪い人ではないのだけれど、底が見えないっていうか、才能と権力が合わさった人だから、失態でも犯せばどうなるかわからない怖さがある。

 自分と同じくらいの才能を持った彰のことを甘やかしているから、彰が庇ってくれれば笑って許してくれそうでもあるが。


「はあ……一日だけだし頑張るか」

「その気晴らしのためだけに呼んだのか」

「まあ、ほとんど正解」

「電話で良かっただろ。荷物はどうでもよさそうな物だから、今度でも良かっただろうし」


 手提げ鞄に入れられているから中は見えないが、床にどさっと置かれているので壊れるようなものでも食材とかでもなさそうだ。


「今日使う物だから、今日中じゃないとダメだよ。杏花も帰ってくるかわからないから来てもらったわけ」

「今日? 別に用事も何もないだろ」


 鞄を手に取って見ると、パンパンに入っているわりには軽い。中が見えないように閉じているチャックを開ければ、出てきたのは服だった。


「服?」

「うん。着替えだよ」


 俺の服ではない。こんな服持っていないし、今日必要になる意味もわからない。着替えがないなんてことはあり得ないし、でかける用事もないから良い服も必要ない。それに中に入ってるのは普段着のようなものだ。


「おい……これって」

「予想通りだと思うよ。鈴音ちゃんの着替え」

「は? なんでこんなもの」

「26日までこっちに泊まるんだって。今日と明日は僕も杏花も忙しいから、悠人の家に泊まるって」


 いやいや、俺には何の話も来ていないのだけれど。たしかに、俺の家もスペースだけはあるから泊まることになっても問題はないし、掃除するものもほとんどないから大丈夫ではある。


「たぶん、そろそろ着いてるくらいかな」


 時計を見て悠長に言う彰。驚きのあまり立ち上がった時に、持っていた鞄が手から滑り落ちてバサッと床に落ちた。立ち上がった俺を不思議そうな表情で彰が見てくる。


「何か見られたらダメなものでもあった? 妹相手に隠すものもないでしょ」

「……香坂がいる」

「え? おいてきたの?」

「盗られるものもないし、盗るような奴でもないし」


 誰かが来ることなんてほとんどないというか、連絡もなしに来るとしたら彰くらいだと思っていた。どうせ、年末には帰るのにわざわざこっちまで来るなんて、俺と違って行動力がある奴だというのを忘れていた。それと、彰が鈴音に対して甘いのも忘れていた。


「まあ、大丈夫じゃないかな。悠人の知り合いなら鈴音ちゃんは仲良くするでしょ」

「それはそうだが、いろいろ言われそうで面倒だ……」

「どんまい。家宅捜索するから連れだしてとは頼まれたけど、こんなことになるとは思わなかったよ」


 楽しそうにしている彰にはイラっとするが、知り合いを家に残して出かけた俺が悪いから何も言えない。鈴音がまだ家に来ていないことを願って、早く家に帰るしかないか。

 香坂に連絡しようにもVCのアカウントしか知らないから、パソコンを見てくれていないと気が付かない可能性が高い。一応連絡だけは入れておくか。


「とりあえず帰る。文句はまた今度だ」

「気をつけてね。幸運を祈るよ」

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