勉強の仕方って
「近くには敵いないっぽいな。アイテムもあるからしばらくは建物の中で待っておくかね」
「待ちで良いだろ。近くでやりあっている音も聞こえないし」
「了解。音が聞こえたら教えてね。悠人の方が索敵得意だから」
「はいはい。一応和也も聞いとけよ」
デュオモードがあるゲームを和也と二人でやっているから、いつもよりかなり気楽にプレイしている。ゲーム性的にも、敵を倒して物資をというよりは、ある程度集まればこもっている方が強いというのもある。
三人称視点のゲームなら、カメラを上手く使えば壁越しに外をある程度見れるので、顔を出さなくて良い分立ち止まったまま外を見てられるのが楽だ。逆に言えば、建物の中に敵がいると、一方的に見られて待ち構えられていることもあるので難しいのだが。
「コーヒー置いておきますね」
「ああ、助かる」
隣でテスト勉強をしていた香坂がいつの間にか飲み物を取りにっていたようだ。机に置かれたコーヒーを一口飲んで息を吐き出すと、VCから笑いをこらえる声が聞こえてきた。
「……なんだ?」
「い、いや、本当に一緒にいるんだなって思ってさ。すっかり馴染んでるなあと」
「邪魔してこないからな。断る理由もない」
一緒にゲームをやっているとき以外はあまり話しかけたりもしてこないので、たまに隣にいることを忘れそうになるくらいだ。それでいて、こうやって飲み物を用意してくれたり、掃除とかしてくれているので、こっちから来るなと拒む理由が見つからない。むしろ、まだ一か月も経っていないのに、そこにいるというのが当たり前のように感じるほどである。ちょっと馴染み過ぎて怖い。
「いいよなー。食事と掃除に関しては母さんがやってくれるけど、勉強しろとかゲームやりすぎるなとかいろいろ言われるからなあ……」
「うちの親はそのあたり緩いから実家でも変わりないな」
父さんは自分もゲームをやるからテスト前でも一緒にやるかと誘ってきていたし、母さんは成績さえそれなりに取っていれば何も言ってこない。
「お前はそれでもテストで点が取れるからだろ。俺は勉強しても悠人と点数変わらないからなあ」
「俺だってテスト前は勉強してるから」
「え? 勉強しているのですか?」
「ほら香坂さんにも言われているぞ」
和也の声は香坂には聞こえていないが、俺の声は聞こえるから反応したようだ。そんなに驚かれても困るのだが、俺だって勉強せずにテストを受けたりしない。補修や再試験がない模試とかなら勉強はしないが、テスト後の拘束を考えるのなら勉強しない方が効率が悪いし。
「ちゃんとやっているから。今だって勉強しているし」
「悠人……バトロワで学べる知識じゃテストは解けないぞ」
「さすがにこれは勉強ではないと思うのですが……」
二人に同じように反応されるとは。和也には前にも言ったような覚えがあるのだが忘れているみたいだな。
「ほら、このノートパソコン見て。ちゃんと勉強しているから」
「……本当ですね。でも、これで覚えられるのですか?」
見やすいように俺の方に寄せていたノートパソコンの画面を香坂に見せる。香坂にモニターを一つ貸しているので、サブモニター代わりに使っているノートパソコンだが、今はそこにテスト勉強用の資料を表示している。
人によって勉強方法は様々だが、俺にとっては時間のある時はこれが一番合っている。
「何かしながらのながら作業は得意なんだよ。集中しないといけないときはさすがに無理だけど、移動中とか漁っているときとかは索敵していても、そんなに気を抜けないってわけじゃないから問題ない」
そのためにゲームも途中ゆっくりしやすいものを選び、激戦区には行かずにゆっくり漁れるところに降下しているわけだし。
勉強に集中しようとしても数十分もすれば飽きてしまう。集中している分時間当たりの効率は良いが、ながら作業で何時間かやった方が一日当たりの進捗は上なんだよな。だから、俺にはこのやり方が合っているというわけで、これをするためにテスト範囲の内容をデータにしてもらっているのだ。自分でまとめなくても杏花さんが用意してくれるのは本当にありがたい。
「俺には無理だなあ。ゲームしているとハルからの連絡に返信するだけでも大変だからね」
「何かしながらですか。音楽くらいなら良いですけれど、それも激しい曲では難しそうですね」
「まあ、そこは人それぞれだからな。自分のやりやすい方法でいいだろ」
「そうですね。私はゲームはゲーム、勉強は勉強の方がしっくりきます」
「俺は勉強したくないなあ」
勉強しなくて済むならそれが一番だが、さすがにそれで乗り切れるほど頭も良くないし、テストも甘くない。
納得したのか香坂は再び勉強を始めたので、ノートパソコンを見やすい位置に戻して、覚える気の起きない化学反応式を眺める。
「車……いや、バイクかな。東側から来るぞ」
「ようやく敵のおでましかあ。撃っていい?」
「撃つなら一緒に撃つ。ちゃんとあてろよ」
「おっけー。せーので前からいくよ」
待つこと三分ほど。ようやく一組目の敵が、二台のバイクに乗って見える範囲にやってきた。俺も和也もスナイパーを持っているので、少し離れているが窓から二人で狙う。
「せーの!」
和也の合図で銃を撃つ。VCのせいで若干タイミングがずれて二つの銃声が鳴り響いた。
コッキングのガチャとした音に続いて二発目が放たれて一人がダウンする。
「二発とも外しただろ」
「いやー、八倍って見にくいな。距離感が全然わからなかった」
「一人逃げられたんだけど……ここから確殺取りに行くのは怖いから、放っておいて次の安全地帯に向かうか」
「起こしに来るのも難しいだろうから、勝手にキルになるでしょ。ギリギリだと後ろも怖いから移動しよっか」
書きながら大学の時はMMOやりながらテスト勉強したりしていたのを思い出しました。ゲームしながらとか生放送見ながらってのが多かったです。